良き暇つぶし。

気負わず、楽しいなって思いながら、暇をつぶせるようなことをつらつら書こうと思います。

【イーソル(4420)】ベインと組んで市場を降りる

こんにちは。

またMBOですね。多いなぁ。

今度はベイン。アクティビスト、ファンド、日本が今稼ぎやすいんでしょうねぇ。

MBOするのは自動車ソフトのイーソルですね。

1. 何が発表されたのか

2026年8月28日、日本経済新聞が「自動車ソフトのイーソルがMBOへ、ベインと150億円規模」と報じました。イーソル(4420)も同日、適時開示で「本日の一部報道について」を出しています。

  • イーソルがMBO(経営陣が参加する買収)で株式を非公開化する
  • 米投資ファンドのベインキャピタルと組んで、近くTOBを実施する
  • 取得額は株式価値ベースで150億円ほどになる見通し

買付価格とプレミアムはこの記事を書いている時点でまだわかりません。

2. イーソルとは何をしている会社か

始まりは1975年5月。東京都台東区に「エルグ株式会社」として設立され、制御系ソフトウェアの受託開発を始めています。イーソルに社名を変えたのが2001年。

時期 できごと
1975年5月 エルグ株式会社として設立。制御系ソフトウェアの受託開発
2001年5月 イーソル株式会社へ商号変更
2018年10月 東京証券取引所マザーズに上場
2019年10月 東証第一部へ市場変更
2022年4月 プライム市場へ移行
2023年10月 スタンダード市場へ移行
2025年10月 京都マイクロコンピュータの持株会社を完全子会社化

マザーズから一部へ上がり、プライムに入り、そこからスタンダードへ降りている。へー、そんなパターンあるんだ。

事業は組込みソフトウェアです。パソコンやスマホのような汎用機ではなく、車・家電・産業機器・医療機器といった特定用途の機器の中で動くソフト。有報の説明が分かりやすいので借りると、こうした機器はリアルタイムで長時間動き、自動運転のように人命に関わる部分を担うので、信頼性や機能安全で高い品質が要る。しかもハードの制御を含むので、技術知見のない企業には参入障壁が高い。

売っているものは3つです。

  • リアルタイムOS(自社製の基本ソフト)
  • 開発支援ツール(ソフトを作る・検証する道具)
  • エンジニアリングサービス(技術者が客先の開発を担う)

収益の形が違います。OSは開発ライセンス・量産時のロイヤリティ・保守の3段構え。ツールはロイヤリティが発生せず開発と保守のみ。エンジニアリングサービスはプロジェクトごとの役務提供です。

前の2つは自社で作ったものを売る商売、3つめは人工商売です。

3. 事業の数値

5年の数字を。

12月期 売上 粗利率 販管費 営業利益
2021年 89.4億円 31.3% 27.2億円 0.7億円
2022年 88.7億円 33.1% 32.9億円 ▲3.5億円
2023年 96.3億円 34.3% 33.8億円 ▲0.8億円
2024年 119.1億円 37.0% 32.9億円 11.1億円
2025年 121.3億円 30.5% 28.8億円 8.2億円

2022年と2023年は営業赤字。2024年に営業利益11.1億円へV字回復し、2025年は8.2億円。

売上だけ見ると2024年から2025年はほぼ横ばい(+1.9%)です。ところが粗利率が37.0%から30.5%へ6.5ポイント落ちている。

なぜか。有報のセグメント内訳に答えがあります。

組込みソフトウェア事業の内訳 2025年12月期 前年比
ソフトウェア製商品(自社製品を売る商売) 16.5億円 ▲28.3%
エンジニアリングサービス等(人が動く商売) 98.7億円 +11.7%

自社製品が28%減って、人が動く仕事が12%増えた。売上の合計はほぼ変わらないのに、中身が高粗利から低粗利へ入れ替わっています。

会社の説明も同じです。売上原価が9.3億円増えた理由を「自動車関連市場の売上の増加に伴う外注費等の原価の増加」と書いている。人手が要る仕事が増えて、外注費が膨らんだということです。

そして2024年に粗利率が跳ねた理由も有報に書いてありました。前年度に「一時的な自動車向けライセンス収入」があり、それが2025年には発生しなかったと。つまり2024年の11.1億円という利益は、一過性のライセンス収入が効いた数字だったことになります。

4. 研究開発費を削って耐えた

粗利が7.1億円消えたのに、営業利益の落ち込みは2.9億円で止まっています。差を埋めたのが販管費です。

12月期 研究開発費 売上に対する比率
2022年 12.6億円 14.1%
2023年 11.9億円 12.3%
2024年 9.1億円 7.6%
2025年 4.3億円 3.6%

2025年だけで4.8億円削っています。有報も販管費が減った理由を「主に、研究開発費の減少によるもの」と書いている。

順番を整理すると、こうなります。

  • 2024年 ― 一時的な自動車向けライセンス収入で粗利が跳ね、営業利益11.1億円
  • 2025年 ― そのライセンス収入が消え、代わりに外注費のかかる仕事が増え、粗利率が6.5ポイント低下
  • 2025年 ― 研究開発費を4.8億円削って、営業利益8.2億円を確保
  • 2026年8月 ― MBOで非公開化へ

 

5. 顧客集中

有報には主要取引先も載っています。

相手先 2024年12月期 2025年12月期
デンソー 27.4億円(23.0%) 18.2億円(15.0%)
ソニー 16.0億円(13.4%) 15.0億円(12.3%)
本田技研工業 6.5億円(5.5%) 9.4億円(7.8%)

この3社で売上の35%です。そして最大顧客のデンソーが、1年で9.2億円減っている。売上の23%を占めていた取引先が15%まで落ちた。

減った金額が9.2億円で、消えた粗利が7.1億円。数字の大きさが近いので、前年の一時的なライセンス収入はここだった可能性があります。

なお受注残高は増えています。組込みソフトウェア事業で16.9億円、前年比+21.7%。仕事そのものが減っているわけではありません。

 

6. 株主名簿

順位 株主 保有比率
1 イーソル従業員持株会 10.59%
2 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 7.74%
3 株式会社KAM 7.16%
4 株式会社ビーオービー 6.09%
5 株式会社アバールデータ 4.06%
6〜8 個人3名 合計7.09%

筆頭株主が従業員持株会です。10.59%。これは珍しい。

3位のKAMと4位のビーオービーは、有報に載っている本店所在地が同じです(東京都港区港南2丁目5-3)。合わせて13.25%。

MBOは経営陣が参加する買収なので、経営側に立つ株はTOBに応募しません。現金を受け取るのはそれ以外の株主です。従業員持株会の分がどう扱われるかは、正式書類が出れば分かります。

7. 150億円をどう見るか

発行済株式数は2,000万株、自己株式を除くと約1,972万株。報道の「株式価値ベースで150億円」を割ると、1株あたり約761円という計算になります(試算です)。

項目 数値
1株あたり(試算) 約761円
PER(2026年会社予想 純利益8.24億円ベース) 約18倍
PBR(2025年末BPS 299.79円ベース) 約2.5倍
参考:2025年末の時価総額 約101億円

プレミアムは基準日が確定していないので計算していません。

直近案件との比較。

案件 買い手 規模 価格の水準
電通総研(同じ8月28日) 伊藤忠商事 2,000億円超 PER約31倍・PBR約5.6倍
イーソル(今回) ベインキャピタル+経営陣 約150億円 PER約18倍・PBR約2.5倍
ボードルア MBO プレミアム0.95%と極端に薄い
CEホールディングス 第三者TOB 市場価格より安く、14%の株主が反対

電通総研はROE17%で安定成長している大型、イーソルは粗利率が崩れた直後の小型。

8. ベインキャピタルという買い手

ベインキャピタルは米国のプライベート・エクイティ・ファンドです。日本での主な案件はこうなっています(以下は報道ベースで、一次資料までは当たっていません)。

案件 時期 内容
すかいらーく 2011年 約1,600億円で買収。2014年10月に再上場
雪国まいたけ 2015年 TOBで買収。買付総額は最大約95億円
キオクシア(旧東芝メモリ) 2017年 ベイン主導の企業連合が約2兆円で買収。2026年に売却益が約2.5兆円と報じられ、国内のPE案件で過去最大のリターンに

キオクシアの2.5兆円は国内PE史上の記録です。その直後の150億円というのは規模で桁が4つ違いますね。

型は一貫しています。買って、立て直してまた上場させる。すかいらーくは3年で戻ってきました。イーソルも数年後にもう一度市場に現れる可能性のほうが高いと思っています。

9. まだ分かっていないこと

項目 いつ分かるか
買付価格とプレミアム、買付予定数の下限 公開買付届出書・意見表明報告書
経営陣の誰が参加するのか 同上
KAM・ビーオービー(合計13.25%)と従業員持株会(10.59%)の扱い 同上
第三者委員会の意見と算定書のレンジ 同上
非公開化の理由として会社が何を挙げるか 同上。ここがいちばん読みたい
非公開化後に研究開発費がどうなるか 公表されない

10. まとめ

最初は「2期赤字から立ち直ったところで身売り」という話だと思ってたんですが、ニュアンス違いましたね。

2024年の好業績は一時的なライセンス収入によるもので、それが消えた2025年は、自社製品が28%減って人が動く仕事が12%増え、粗利率が6.5ポイント落ちています。その穴を研究開発費を半分以下にして埋めた。有報に「引き続き積極的に先行投資していく」と書いた5か月後に、非公開化が報じられた。

自社製品を持っていることがこの会社の強みだと有報に書いてあるのに、その自社製品が縮んで、人月の仕事が伸びている。上場したままだと、この流れを止めるための投資がしにくい。ベインと組むのはそこを外すためってことかな。

答え合わせとしてはベインが数年後に再上場させたときですかなぇ。すかいらーくが3年で戻ってきたことを思うと、2029年か2030年でしょうか。

それにしても、有報の「日本のソフトウェア産業を強くするためにも」という一文が、読み終わってからも引っかかっています。あれを書いた会社が、米国のファンドと市場の外へ出ていく。悪い話だとは思わないけれど、なんというか、そういう時代なんだなと。

<参考>

  • 日本経済新聞「自動車ソフトのイーソルがMBOへ、ベインと150億円規模」(2026年8月28日)、およびイーソル適時開示「本日の一部報道について」(同日)
  • イーソル株式会社 有価証券報告書(2021年12月期〜2025年12月期、EDINET。2025年12月期はdocID S100XV6D、2026年3月30日提出)― 売上・売上総利益・販管費・研究開発費・営業利益、セグメント別売上と営業利益、大株主の状況、「沿革」「事業の内容」、および「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」(一時的な自動車向けライセンス収入の記述、売上原価増加の理由、ソフトウェア製商品▲28.3%/エンジニアリングサービス等+11.7%の内訳、主要相手先別販売実績、受注残高、先行投資と手元流動性の方針)
  • イーソル株式会社 2026年12月期 第2四半期(中間期)決算短信(2026年8月10日)― 通期会社予想
  • ベインキャピタルの日本での投資実績(すかいらーく2011年・約1,600億円、雪国まいたけ2015年・買付総額最大約95億円、キオクシア2017年・企業連合で約2兆円、2026年の売却益約2.5兆円)― 日本経済新聞、M&A Onlineほかの報道による
  • EDINET DB(Cabocia Inc.)― 財務時系列、セグメント、大株主、有報テキストの取得

※本記事は個人の見解であり、特定の金融商品をお勧めするものではないので、投資判断は自己責任でお願いします。