こんにちは。
ニッコンホールディングスという会社がめずらしく入札で非公開化を進めようとしてるので調べてみました。東証プライムの陸運業で、時価総額6,361億円。株主に本田技研工業が4.19%入っています。
まず経緯
| 日付 | 何が | 終値 |
|---|---|---|
| 2026年1月5日 | 年初来安値 | 3,406円 |
| 5月19日 | 報道の前日 | 5,231円 |
| 5月20日 | 非公開化を検討、6月初旬に1次入札へ(ブルームバーグ) | 5,772円(+10.3%) |
| 6月23日 | 年初来高値 | 6,689円 |
| 9月2日 | ベインとローンスターが2次入札へ、割引TOBの可能性(同) | 5,261円(−4.21%) |
| 9月3日 | 3日続落 | 5,029円(−4.41%) |
買い手候補は2社に絞られました。ベイン・キャピタルとローンスター。6月の1次入札を通過して、それぞれ資産査定を終えて、9月上旬の2次入札に向けて準備しているところだそうです。
非公開化の話としては順調に進んでいるように見えます。
割引TOB
普通のTOBは、市場価格に上乗せして買います。最近この欄で書いたものだと、ジャパネットがツインバードに提示した800円は前日終値395円に対して102.5%の上乗せでしたし、フロイント産業のMBOは1,085円で42.6%の上乗せでした。上乗せがないと、株主は市場で売ったほうが得なので応募してくれないからですね。
割引TOBはその逆で、市場価格より低い値段で買い付けます。ディスカウントTOBとも言います。
買う側の理屈は単純です。買収の噂で株価が先に上がってしまうとその上がった値段にさらに上乗せしたら払いすぎになる。ファンドは買った会社をあとで売って儲ける商売なので、入口の値段が高いと出口で儲からない。だから「今の株価より下でないと買えません」と言い出す。
TOBが出たら株価が上がるものだと思って買った人は、上がらないどころか下の値段でロックされちゃいますね。
株価を並べてみると
| 時点 | 株価 | 9月3日との差 |
|---|---|---|
| 年初来安値(1月5日) | 3,406円 | +47.6% |
| 報道の前日(5月19日) | 5,231円 | −3.9% |
| 年初来高値(6月23日) | 6,689円 | −24.8% |
| 9月3日終値 | 5,029円 | — |
非公開化の報道が出る前日よりいまのほうが安いんです。5,231円が5,029円になっている。
5月20日に買った人は、3か月半持って含み損です。買収期待で入った資金が、割引の話が出た途端に逃げている。
ただ、買い手が「高すぎる」と言っている基準は年初です。1月5日の3,406円から見れば、いまでも47.6%高い。買い手が見ているのは6月の高値ではなくてこの上がり幅のほうなんだろうと思います。まぁそりゃそうだ。
業績で上がったわけではありません
直近の四半期を並べます。
| 4〜6月 | 2025年 | 2026年 |
|---|---|---|
| 売上高 | 658億円 | 685億円 |
| 営業利益 | 50.1億円 | 49.8億円 |
| 経常利益 | 55.4億円 | 52.4億円 |
| 純利益 | 26.9億円 | 13.4億円 |
売上は4%増えていますが、営業利益は横ばい、経常は5%の減益、純利益は半分になっています。
いまのPERは28.0倍、PBRは2.49倍です(株探の表示)。直近の純資産2,428億円と時価総額6,361億円から自分で割ると2.6倍になるので、分母の取り方で少し動きます。どちらにしても、純利益が半分になった会社にPER28倍です。買い手が「この値段では投資収益を確保しづらい」と言うのは、数字だけ見ればそのとおりだろうと思います。
それでも株価は年初から5割上がりました。上げたのは業績ではないということになります。
では、何が上げたのか
まず有価証券報告書に載っている大株主です。2026年3月末時点。
| 株主 | 比率 |
|---|---|
| GOLDMAN, SACHS & CO.REG | 21.50% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 6.33% |
| THE CHASE MANHATTAN BANK, N.A. LONDON SPECIAL ACCOUNT NO.1 | 5.37% |
| 一般社団法人黒岩会 | 4.38% |
| 本田技研工業 | 4.19% |
| Panicum Funding Ltd.(ケイマン) | 3.42% |
| NOMURA PB NOMINEES LIMITED | 3.37% |
ほとんどが名義口座です。証券会社や信託銀行が顧客の株を預かっているだけの名前なので、この表を見ても誰が持っているのかは分かりません。黒岩会は茨城県古河市にある一般社団法人で、代表取締役社長の黒岩正勝さんと名字が同じですが、関係は確認していません。
それで、大量保有報告書のほうを見ました。こちらには名前が出ます。
| 提出者 | 比率 | 株数 | 提出日 |
|---|---|---|---|
| ファラロン・キャピタル・マネジメント | 23.00% | 29,088,700株 | 2026年4月2日 |
| オアシス・マネジメント | 17.67% | 22,517,838株 | 2026年7月29日 |
2社で40.67%です。
有価証券報告書の大株主一覧にこの2つの名前はどこにも出てきません。名義口座の裏に入っている。ゴールドマン・サックス名義が2024年3月末の4.70%から2026年3月末の21.50%まで増えているのは無関係ではない気がしますが、名義と実質の対応は開示されていないので、そこは分かりません。
オアシスが書いていること
オアシスの大量保有報告書の、保有目的の欄がかなり具体的でした。今後12か月のあいだに提案する予定のこととして、法令の条番号で列挙してあります。中身に直すとこうです。
- 多額の借財
- 代表取締役の解職
- 役員構成の重要な変更
- 配当方針の重要な変更
- 上場の廃止
- 発行者以外の者が所有する議決権が過半数を超えることとなる取得
上場の廃止と過半数を超える買収。非公開化そのものです。
さらに、こうも書いてあります。
提出者は報告義務の発生日時点において、ポートフォリオ投資の一環として、市場内外の取引を通じて発行者の普通株式の株券等保有割合を100分の5を超える割合増加させる行為を予定している。ただし、5%超取得行為は、発行者の普通株式の市場価格が割安と判断される水準にあること及びその他の条件に左右され
割安なら、さらに5%以上買い増す。7月29日の時点でそう書いています。
会社のほうも動いていました
2025年12月から2026年3月まで自社株買いを続けていて、自己株式が7.69%まで積み上がっています。その原資は貸借対照表に出ています。
| 2024年3月期 | 2026年6月末 | |
|---|---|---|
| 有利子負債 | 790億円 | 1,231億円 |
| 自己資本比率 | 63.3% | 56.6% |
| 有利子負債比率 | 32.2% | 49.1% |
借金を440億円増やして、自己資本比率を6.7ポイント落としています。物言う株主が4割握って、自社株を買って株価が上がった。
割引TOBには、そもそも成立するのかという問題があります。市場で5,029円で売れるのに、それより安い値段の公開買付に応募する人はいない。少数株主は普通応募しません。
それでも成立させる方法はあって、大株主とあらかじめ応募の契約を結んでおくやり方です。まとまった塊を先に確保してしまえば、市場から集まらなくても届く。
ファラロンとオアシスで40.67%あります。自己株式7.69%は買付の対象外になるので、それを除いた土俵で考えると、この2社の比重はもっと大きくなります。
そして少なくともオアシスは、上場廃止と過半数超の取得を自分から提案する予定だと書いている株主です。売る意思がないわけではない。
ただし応募契約があるかどうかは、公開買付届出書が出るまで分かりません。オアシスが「割安なら買い増す」と書いていることを踏まえると、安い値段には応じずに反対側に回る可能性もあります。ここは僕の見立てで、開示にも報道にも書かれていません。
前にもありました
割引TOB自体は珍しいものの、初めてではありません。
記憶に新しいのは2025年6月の豊田自動織機です。夕方に発表された公開買付価格が1株16,300円で、その日の終値を下回りました。翌日の株価は11.9%下げて16,205円。TOBが出て株価が下がる、という光景がありました。
古いところでは2013年のアトミクスの自社株買付があって、前日終値420円に対して買付価格が400円でした。日本経済新聞は2018年の時点で「市場より割安TOB相次ぐ」という記事を出しています。
ただ、これまでの例は自社株の買付や、親会社が子会社の株を買い増すケースが多かったように見えます。外部のファンドが会社を丸ごと非公開化するのに割引を使うとなると、少数株主を最後にどう外すのかという話が必ず出てきます。そこは注目したいところです。
これから見るところ
- 2次入札の結果。9月上旬なので、そう遠くないはずです
- 本当に割引で出すのか。出すとしたら何%引きか
- 大株主の応募契約があるかどうか。公開買付届出書に書かれます
- オアシスとファラロンが応募するのか、反対に回るのか。40.67%が動く方向で決まります
- 買い手が降りる可能性。値段が折り合わなければ、入札そのものが流れます
<参考>
- ブルームバーグ「ニッコン非公開化でベインなど2次入札へ、割引TOBの可能性も-関係者」(2026年9月2日16時22分配信)― 本記事は同社の記事本文を購読していないため、トレーダーズ・ウェブ、株式新聞Web、TradingViewなどの二次報道および検索結果に表示された要約により内容を確認しています
- ブルームバーグ「ニッコンが非公開化検討、6月初旬に1次入札へ-関係者」(2026年5月20日)、日本経済新聞(2026年5月21日)
- 株価、年初来高値・安値、時価総額6,361億円、発行済株式数126,479,784株、PER28.0倍、PBR2.49倍は株探およびYahoo!ファイナンス(2026年9月3日終値時点)。過去の株価は株式分割の調整後
- 有価証券報告書の大株主(2026年3月末時点、docID S100YLI5)、および2024年3月末・2025年3月末の推移はEDINET提出書類
- ファラロン・キャピタル・マネジメントの23.00%(2026年4月2日、docID S100XW71)、オアシス・マネジメントの17.67%(2026年7月29日、docID S100YSLE)と保有目的の引用は、いずれもEDINETの変更報告書
- 総資産、株主資本、有利子負債、自己資本比率、四半期業績はIRBANK(EDINET提出書類に基づく。ニッコンホールディングス E04191)
- ツインバードの800円・前日終値395円、フロイント産業の1,085円・プレミアム42.6%は、いずれも本ブログの過去記事で確認した数字
- 豊田自動織機の公開買付価格16,300円と翌日の株価下落は読売新聞(2025年6月5日)。アトミクスの事例はfundbook、M&A総合研究所ほかの解説記事
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※本記事は個人の見解であり、特定の金融商品をお勧めするものではないので、投資判断は自己責任でお願いします。