ゆる投資とAIと暇つぶし

気負わず、楽しいなって思いながら、日々の投資や生成AIについて記録

フィジカルAI関連の日本株の整理 ― バリューチェーンのどこに投資機会がありそうか

こんにちは。

今回はいつもの個別銘柄やIPOではなく、領域のテーマで書いてみます。

既にバズワードまっさかりの、フィジカルAI

NVIDIAのジェンスン・ファンCEOもここ1年くらいずっと言ってますね。AIがチャットボットの中から飛び出して、ロボットとして現実世界で動き回る時代が来る、と。

投資としてもフィジカルAI銘柄!みたいな特集結構みるようになってきたなぁ。

ファナック、安川電機、川崎重工、とかが有名ですかね。

とはいえ、それ買えば儲かるの?」聞かれたら、うーん。全員が同じ銘柄を買ったら、それは「織り込み済み」だしね。

もう少し分解して踏み込んでバリューチェーンのどこに本当の投資機会があるのかを考えてみます。

 

そもそもフィジカルAIって何?(簡単に)

詳しい解説はソフトバンクや富士通の記事とか他にも山ほどあるので、ここではポイントだけ。

  • AIが画面の中から現実世界に出てくる技術。センサーで世界を認識し、ロボットの体で実際に動く。物理世界だぜ。
  • NVIDIAのジェンスン・ファンCEOがCES 2026の基調講演で「AIの進化はもはやLLMに留まらず、物理世界に拡張された」と宣言。
  • 日本政府もAI基本計画(2025年12月閣議決定)でフィジカルAIを「日本の勝ち筋」3分野の1つに位置づけ、5年間で1兆円規模の公的支援を打ち出した。
    (この日本の勝ち筋についてはいつか別記事書きたい)

市場規模の予測はいろいろ出ている。

調査元

予測内容

MarketsandMarkets

ヒューマノイドロボット市場:2025年29.2億ドル → 2030年152.6億ドル(CAGR 39.2%)
出典

Goldman Sachs

ロボット市場全体で2035年に380億ドル
出典

ただし、あてにしすぎない方がいい気もする。「50兆ドル市場」みたいな景気のいい数字も飛び交ってますが、あれはNVIDIAのCEOがGPUを売るために言ってる数字って側面もあるので中立的な予測ではなさそう。

 

バリューチェーンを分解する

フィジカルAI関連銘柄ってくくらないで、バリューチェーンを分解してみよう

ファナックもキーエンスもソフトバンクGも「フィジカルAI関連」として同列に並びますが、ビジネスモデルは全く違う。それを同じカゴに入れて「関連銘柄10選!」と言うよりは少し細かくしみてようってだけです。

フィジカルAIは、大きく5つのレイヤーに分けて考えると見通しが良くなるかも。

 

レイヤー① AI基盤モデル(脳)

ロボットが「何をすべきか」を判断する頭脳の部分。ここを押さえているのはNVIDIA、Google、Teslaといった米国勢です。

NVIDIAは「Cosmos」「Isaac」「Gr00t」といったフィジカルAI向けの基盤モデルやプラットフォームを矢継ぎ早に発表しており、ロボットの「Android」になろうとしている(TechCrunch)。

日本からはPreferred Networksが国産フィジカルAI基盤モデルの開発に参加しているものの、正直、このレイヤーで米国勢に正面から勝つのは難易度高い。日本株で狙う領域ではない、というのが私個人の見解。とはいえ、汎用としての脳の他に、例えば現場側で使う領域特化の脳も必要になる気がして、その辺が本当の日本の狙いどころでは、と思ってはいる。

 

レイヤー② 半導体・センサー(五感)

ロボットが現実世界を「見て」「感じる」ための部品。ここは日本企業にも強みがある。というかまぁもともとそこそこ強い。

企業

コード

何をやってるか

ソニーグループ

6758

イメージセンサー世界トップシェア。ロボットの「目」。

キーエンス

6861

FA用センサー大手。工場内でロボットが物体を認識するための「五感」を提供。

ルネサスエレクトロニクス

6723

MCU(マイコン)を提供。AIからの指令をマイクロ秒単位で電流制御に変換する「神経・脊髄」の役割。国産ヒューマノイド連合にも参画。
日本経済新聞

ただし、ソニーもキーエンスもフィジカルAI専業ではない。既に巨大な事業基盤があり、フィジカルAIの恩恵が業績に占める割合は限定的。「フィジカルAIだから買い」と単純化する感じではないのかな。まぁでも大いに関連はする。

 

レイヤー③ 精密部品・アクチュエータ(関節・筋肉) 

ロボットの「脳」がどれだけ賢くなっても、実際に手足を動かすのは減速機、モーター、ベアリングといった精密部品。そしてこれらには、ソフトウェアと決定的に違う特徴がある。

物理法則が参入障壁になっている。

結晶の成長速度、金属の加工精度、光学系の設計ノウハウ…これらは一夜でコピーできない。GitHubにコードを公開すればいい世界ではなく、何十年もかけて蓄積した製造技術がモノを言う世界。

企業

コード

何をやってるか

なぜ重要か

ハーモニック・ドライブ・システムズ

6324

波動歯車減速機

国内シェア約9割。小型・軽量・高精度で、ヒューマノイドの指関節など繊細な部位に使われる。
東洋経済オンライン

ナブテスコ

6268

精密減速機(RV減速機)

産業用ロボット関節用で世界シェア約60%。中・重負荷用では世界トップ。ハーモニックドライブと合わせて、減速機の世界シェアの大半を日本2社が握っている。

ミネベアミツミ

6479

ミニチュアベアリング、6軸力覚センサー、ステッピングモーター

ミニチュアベアリング世界シェア60%超。6軸力覚センサーはロボットの「触覚」にあたる。ルネサスとモーター制御で協業済み。
ミネベアミツミ公式

THK

6481

直動案内(リニアガイド)

LMガイドで世界首位級。ロボットが精密に直線移動するための基盤部品。

ニデック

6594

サーボモーター、精密小型モーター

世界最大級のモーターメーカー。ロボット向けサーボモーター新機種を2025年5月に発売。
日本経済新聞

 

歴史を振り返ると、技術革命で「完成品を作る側」が最終的に価値を取るとは限らない。

  • PC革命 → 完成品のIBMではなく、CPUのIntelとOSのMicrosoftが価値を取った
  • スマホ革命 → 端末メーカーよりも、エコシステムのAppleと製造集約のTSMCが勝った

フィジカルAIでも同じ構造が起きうる。ロボットの「脳」はNVIDIAが握る。本体メーカーは差別化が難しくなっていく。

でも精密減速機やベアリングは別。誰がどんなロボットを作ろうと、関節には減速機が必要で、回転軸にはベアリングが必要。しかもそれをトップレベルの品質で作れる企業は世界に数社しかない。というところは日本強いっすよねぇ。

 

ここで押さえておくべき構造的なデータがある。

  • 産業用ロボットのコアコンポーネント(コントローラ、サーボモータ、減速機)はコストの約70%を占める
  • そのうち減速機だけで約35%
  • そしてヒューマノイドロボット1体に必要な減速機の数は、従来の産業用ロボットの6〜10倍

つまり、ヒューマノイドが本格普及すれば、減速機の需要は桁違いに膨らむ。Goldman Sachsは2030年にヒューマノイド25万台以上の出荷を予測しているが(出典)、仮にその半分でも実現すれば、ナブテスコとハーモニックドライブへのインパクトは相当なものになる。

彼らは、フィジカルAI時代の「TSMCのポジション」を取り得る企業だと思っている。

 

レイヤー④ ロボット本体(体)

ここが皆さんおなじみのファナック、安川電機、川崎重工。日本の製造業の代名詞。

良い企業だけど、フィジカルAIの文脈では「本命」ではないかもしれないなぁと個人的には思っている。コモディティ化リスクと、NVIDIAプラットフォームに組み込まれることで交渉力が下がるリスクがある。

あとさー中国がめちゃくちゃ安くでロボット本体作りそうじゃない?と。

レイヤー⑤ SIer・インテグレーション(導入)

ロボットを実際の現場に導入する作業。労働集約的で、付加価値が集まりにくいレイヤー。投資対象としては優先度が低い。とはいえ、ここも市場ができるところではあるのかな。

 

「ド定番銘柄」をあらためて

ここからは、どの記事にも名前が出てくるファナック・安川電機・川崎重工について、あえて冷静に見てみる。

企業

コード

最近の動き

気になるポイント

ファナック

6954

NVIDIAと協業しフィジカルAI搭載ロボットを開発。NVIDIA Jetsonを採用。2025年12月のiREXでAIロボットを公開。
ファナック公式

PERは景気の底でも30倍台、好況期は40-50倍。「優良さ」は既に株価に反映されている。

安川電機

6506

ソフトバンクと協業。東京ロボティクスを買収しヒューマノイド「Torobo」を開発。2026年度にヒューマノイド市場参入を表明。
安川電機公式

サーボモーター世界トップシェアは事実だが、従来からの強み。「フィジカルAI」は新しいラベルであって、事業の実態が劇的に変わったわけではない。

川崎重工業

7012

米Dexterityと提携。ヒューマノイド「Kaleido」を開発中。

ロボット事業は売上全体の一部。フィジカルAI関連売上の開示はない。

これらの企業が悪いと言いたいわけではない。間違いなく優良企業。

ただ、「良い企業」と「良い投資先」は別物ですもんね。全員が知っていて全員が買っている銘柄は、「想定通り」では株価が動かない。「想定以上」のサプライズがなければリターンは限定的。

もう一つ意識しておきたいのがNVIDIAとの力関係。ファナックのロボットモデルはNVIDIAのシミュレーション環境に「SimReadyアセット」として標準搭載されている。一見すると良いニュースだけど、裏を返せば「NVIDIAのエコシステムの一部品」として組み込まれたということでもある。

スマホ産業で日本の電子部品メーカーがiPhoneのサプライチェーンに入ったのを「勝利」と語った。でも利益の大部分はAppleが持っていった。同じ構図が起きないとは言い切れない。儲かりはするだろうけど。

 

世界のトップ研究者は懐疑的

テーマに乗る前に、冷や水も浴びておこうと思い。

  • ロドニー・ブルックス(iRobot共同創業者、MIT)は「ヒューマノイドロボットバブルは弾ける」と明言。人間の手には約17,000の触覚受容体があり、ロボットはそれに遠く及ばないと指摘している。(TechCrunch
  • ケン・ゴールドバーグ(UCバークレー)は、汎用ヒューマノイドの実現は「2年でも5年でも10年でもない」と述べている。(Berkeley News
  • ダニエラ・ラス(MIT)は、ヒューマノイドが工場で活躍しているという認識を否定し、ロボットには「常識が欠けている」と指摘。(Fortune

過去のテーマ株を思い出すなぁ。ドローン、バイオ、自動運転…技術的に革命的であることと投資として儲かることは全く別の話。

ちなみに、NVIDIA自身のフィジカルAI関連収入ですら、2026年度売上全体の3%未満と報じられている(Motley Fool)。旗振り役のNVIDIAですらまだ儲かっていないテーマ、ということは頭に入れておくべき。絶対来るとは思うけどね!

 

じゃあどうしよう

まとめ。

① 時間軸を意識する

フィジカルAIは「いつか来る」テーマだけど、「いつ来るか」は誰にも分からない。物理世界には安全規制・労働法・保険制度という「ソフトウェアにはない摩擦」がある。5年後に正しくても、2年間の含み損に耐えられなければ意味がない。短期のテーマ投資なのか、10年の構造変化への投資なのか、自分のスタンスを先に決めるべき。

② 「ロボット本体」ではなく「不可避のボトルネック」に張る

ロボットの脳がどれだけ賢くなっても、精密減速機とベアリングがなければ動けない。しかもこれらは物理法則に守られた参入障壁がある。ナブテスコ、ハーモニックドライブ、ミネベアミツミは、誰がロボットを作っても恩恵を受ける立ち位置にいる。

③ ヒューマノイドだけがフィジカルAIじゃない

メディアは人型ロボットに注目しがちだけど、フィジカルAIの本質は「AIが物理世界を操作すること」。自動搬送ロボット(ダイフク)、協働ロボット(ファナックCRXシリーズ)、手術支援ロボット(メディカロイド=川崎重工/シスメックスJV)なども含まれる。ヒューマノイドへの過剰な期待こそが「テーマ投資の罠」かもしれない。

④ もしかすると「ロボットを使う側」が最大の受益者

逆説的だけど、PC革命の最大の受益者はMicrosoftやIntelだけではなく、PCを使って業務効率を劇的に上げた企業群でもあった。ロボティクス企業の株を買うよりも、ロボット導入でコスト構造が劇的に変わる企業(物流、介護、建設など)に投資する方が、リスク調整後のリターンが高い可能性もある。かも。

 

参考・出典

  • MarketsandMarkets「Humanoid Robot Market」 出典
  • Goldman Sachs「The global market for robots could reach $38 billion by 2035」 出典
  • 内閣府「AI基本計画」(2025年12月閣議決定) 出典
  • ファナック「フィジカルAI搭載ロボット」 出典
  • 安川電機「ヒューマノイド市場参入」 出典
  • 東洋経済オンライン「小型減速機の世界王者」 出典
  • 日本経済新聞「ファナック・NVIDIA提携」 出典
  • 日本経済新聞「国産ヒューマノイド連合」 出典
  • TechCrunch「Famed roboticist says humanoid robot bubble is doomed to burst」 出典
  • Berkeley News「Are we truly on the verge of the humanoid robot revolution?」 出典
  • Motley Fool「Physical AI Is Less Than 3% of Nvidia's Revenue」 出典

 

免責事項: 本記事はあくまで個人の見解であり、特定の有価証券の購入や売却を推奨するものではありません。投資判断は自己責任で行ってください。記載されている情報は2026年4月時点のものです。

 

今後、フィジカルAI関連はシリーズ化していく予定です。次回は海外のフィジカルAI企業マップ(Figure AI、Tesla Optimus、1X Technologies等)を整理します。

 

最後に、本記事はあくまで個人の見解であり、投資助言ではありません。実際の投資判断は自己責任で!