5件目。
こちらも超有名アクティビストファンドですね。
富士ソフトへの投資が有名です。
日本企業に投資するアクティビストをGeminiと紹介するシリーズです。
その他アクティビスとは?みたいなことも含めてこちらでまとめています。
それではさっそくいきましょう。
【徹底解剖】3Dインベストメント・パートナーズ:日本企業を動かす「物言う株主」の戦略と実像
1. エグゼクティブ・サマリー
本レポートは、近年、日本の株式市場において最も影響力のあるアクティビスト・ファンド(物言う株主)の一つである「3Dインベストメント・パートナーズ」(以下、3D)について、その実態と戦略を包括的に分析するものである。
3Dは、2015年に設立されたシンガポール拠点の資産運用会社であり、特に日本株へのバリュー投資に特化している 1。彼らの投資哲学は、公式には「中長期的な価値創造」と「経営陣とのパートナーシップ」を掲げている 2。
しかし、その活動実態は、単なる友好的な対話者にとどまらない。3Dの戦略的特徴は、まず非公開の「対話」を試み、それが機能不全に陥ったと判断した場合、公開書簡による「世論への問題提起」、さらには株主提案や臨時株主総会の招集といった「実力行使」へと段階的に圧力を強める「硬軟両様」のアプローチにある。
この戦略は、日本の主要企業に対して劇的な結果をもたらした。東芝の経営陣が推進した「3社分割案」に対しては、臨時株主総会を舞台にした巧妙な戦略でこれを阻止し、最終的な非公開化への道筋を決定づけた 3。また、富士ソフトに対しては、2年越しのエンゲージメントの末、経営陣に「非公開化」か「大規模な株主還元」かの二者択一を迫る株主提案を行い、結果として米KKRによる同社の非公開化(TOB)実現の立役者となった 5。
現在も、東邦ホールディングスや東北新社といった企業の大株主として、ガバナンスの欠如や資本効率の低さを理由に、経営陣への厳しい要求を続けている 8。
3Dの活動は、対象企業の経営陣にとっては「脅威」であるが、非効率な経営や低い株価(特にPBR1倍割れ)に甘んじてきた日本企業に対し、資本市場からの規律を強烈に突きつける「触媒」として機能している。本レポートは、一般の読者層を対象に、アクティビストの基本的な解説から、3Dが実行した主要なケーススタディ、そして現在進行中の案件までを詳細に解剖する。
2. 導入:3Dインベストメント・パートナーズとは何者か
2.1 ファンドの基本情報
3Dインベストメント・パートナーズ(3D Investment Partners Pte. Ltd.)は、2015年に設立された資産運用会社である 2。拠点はシンガポールに置き 1、米国証券取引委員会(SEC)にも投資顧問業者として登録されている 11。
その最大の特徴は、運用対象を「日本株」に特化させ、割安と判断した銘柄に投資する「バリュー投資」を専門としている点である 2。
ファンドを率いるのは、創設者でありCEO兼最高投資責任者(CIO)を務める長谷川莞也(Kanya Hasegawa)氏である 12。同氏は、日本やアジア市場において、株式、不動産、クレジット(債券)など多様な資産クラスで約20年にわたる投資経験を有している 13。2022年には、投資先である富士ソフトに対し、長谷川氏自身を取締役として選任するよう株主提案を行ったことでも知られている 13。
2.2 投資哲学:標榜される「パートナーシップ」
3Dが公式に掲げる投資哲学は、非常に穏健かつ長期的なものである。彼らは自らの使命を「複利的な資本成長を通じた中長期的な価値創造」と定義し、「長期的なリターンの達成という共通の目的を共有する経営者とのパートナーシップを重視しております」と公言している 2。
これは、短期的な利益を求めて経営を混乱させる、というアクティビストの一般的なイメージとは一線を画すものである。実際に、後述する富士ソフトのケースでは、経営陣に対し、成長戦略を策定するためのコンサルティング会社や、従業員のエンゲージメント(会社への愛着や貢献意欲)を測定する調査会社を紹介するなど、経営改善に向けた「対話」を試みた形跡が残っている 13。
2.3 分析:理念と現実の「二面性」
3Dの真の姿を理解する鍵は、この公式に掲げる「パートナーシップ」の理念と、実際に日本市場で見せている「対決」姿勢という、一見矛盾した二面性にある。
彼らは「対話」を重視する一方で、日本の経済史に残るような、経営陣との熾烈な対立を繰り広げてきた。東芝に対しては、会社分割案に真っ向から反対し、臨時株主総会の招集を請求 3。富士ソフトに対しては、対話が不調に終わると「旧態依然とした経営」と公の場で厳しく批判 14。東邦ホールディングス(TOHO)に対しては、経営陣のガバナンス問題を糾弾する詳細なプレゼンテーション資料を全株主に公開した 10。
しかし、これは矛盾ではなく、彼らの合理的な「戦略的エスカレーション(段階的圧力)」の手順を示している。
- フェーズ1:非公開の「対話(パートナーシップ)」
まずは水面下で経営陣と接触し、パートナーとして資本効率の改善やガバナンスの強化を提案する 2。 - フェーズ2:公の「問題提起」
経営陣が提案を無視、あるいは対話に応じない(=「パートナーシップ」が機能しない)と判断した場合、他の株主や市場全体を味方につけるため、公開書簡や批判的なプレゼンテーションを公表し、圧力をかける 10。 - フェーズ3:「実力行使」
それでも経営陣が動かない場合、株主提案やプロキシーファイト(委任状争奪戦)という最終手段を行使し、株主総会という公の場で経営陣の是非を問う 3。
3Dの本質は、対話を重視する「忍耐強い」投資家であると同時に、一度「企業価値の最大化」という目的達成に必要と判断すれば、経営陣との全面対決も辞さない「冷徹な」戦略家でもある。
3. 【一般読者向け解説】アクティビストと彼らの「武器」
3Dの活動を理解するために、アクティビスト(物言う株主)がどのような存在で、何を目的とし、どのような「言葉」や「武器」を使うのかを解説する。
3.1 「アクティビスト(物言う株主)」とは?
アクティビストとは、企業の株式を一定数(多くの場合、発行済株式の数%以上)取得し、その「株主」という立場から、投資先企業の経営陣に対して積極的に提言や要求を行う投資家のことを指す 16。
彼らの主な目的は、自らの要求を通じて投資先企業の「企業価値を向上」させ、結果として株価を上昇させることで、投資リターンを得ることにある。具体的な要求としては、不採算事業の売却、経営陣の刷新、配当の増額や自社株買い(株主への利益還元)などが多い 16。
日本では過去、「総会屋」(経営陣のスキャンダルなどをネタに金銭を要求する反社会的勢力)や、「グリーンメーラー」(経営権には興味がないのに株を買い占め、会社関係者に高値で買い取らせようとする投資家)が問題視された歴史がある 16。
しかし、3Dのような現代のアクティビストは、これらとは明確に区別される。彼らは、詳細な財務分析や経営分析に基づき、「企業価値を高めるため」という合理的な論理を構築し、他の一般株主、特に年金基金や投資信託といった「機関投資家」の賛同を得ることで、経営陣に圧力をかけるのが特徴である 16。
3.2 アクティビストの「主要言語」:ROEとPBR
アクティビストが企業をターゲットにする際、彼らが最も重視するのが「資本効率」を示す指標、特にROEとPBRである。
ROE(自己資本利益率 / Return on Equity)
- 意味:株主が出したお金(自己資本、または純資産)を使って、会社が1年間でどれだけ効率的に利益(当期純利益)を稼いだかを示す指標 17。いわば、企業の「稼ぐ力」を測る体温計のようなものである。
- なぜ重要か:ROEが低い(日本では一般的に8%〜10%が目安とされる)場合、アクティビストは「株主から預かった大切なお金(自己資本)を、経営陣が有効に使えていない。経営が非効率だ」と批判する。
PBR 株価純資産倍率 / Price-to-Book Ratio)
- 意味:会社の純資産(もし会社が今すぐ解散した場合に、株主に残る理論上の価値)に対して、現在の株価が何倍になっているかを示す指標 18。
- なぜ重要か:PBRは「1倍」が基準となる。
-
- PBRが1倍を割る:これは、市場(投資家)が、「その会社が将来的に生み出す価値」よりも、「今すぐ解散した場合の価値(純資産)」の方が高いと評価している、という異常事態を意味する 18。つまり、会社は「事業を続けない方がマシ」と判断されているに等しく、「極端な割安」状態とされる。
ROEとPBRの関係:アクティビストの「招待状」
ROEとPBRは密接に関連している 17。企業の「稼ぐ力(ROE)」が低いと、投資家はその企業の将来に期待が持てず、株価は純資産の価値(PBR1倍)をも下回りがちになる。
アクティビスト、特に3Dのようなファンドにとって、この「PBR1倍割れ」かつ「低ROE」の企業は、格好のターゲットとなる。
彼らの論理はこうだ。「貴社はPBR1倍割れで市場から見放されている。その原因は低ROE(稼ぐ力の低さ)にある。そして、その低ROEの原因は、経営陣が必要以上に現金や政策保有株式、不動産などを『過剰資本』として抱え込み、有効活用していないからだ 7。その無駄な資本を、自社株買いとして株主に還元するか、もっと収益性の高い事業に投資せよ」。
これはまさに、近年、東京証券取引所が「PBR1倍割れ企業は改善策を開示せよ」と要請している文脈と完全に一致しており、アクティビストの活動を正当化する強力な追い風となっている。
3.3 アクティビストの「最終兵器」:プロキシーファイト(委任状争奪戦)
経営陣との対話が決裂した場合、アクティビストが取り得る最終手段が「プロキシーファイト」である。
- 定義:「プロキシー(Proxy)」とは「委任状」のこと。株主総会での重要な議案(取締役の選任や合併の承認など)の採決をめぐり、経営陣側と、それに反対するアクティビスト側が、他の一般株主から「私の代わりに議決権を行使してください」という「委任状」を集めようと競い合うこと 19。「委任状闘争」とも呼ばれる。
- プロセス:一般的に、①アクティビスト(株主側)が株主名簿を閲覧して他の株主の情報を得る、②アクティビストが自身の提案(例:「現任のA社長の解任」「B氏の社外取締役選任」)に賛同するよう、委任状の勧誘を開始する、③経営陣も対抗し、経営陣側の議案(例:「A社長の再任」)に賛成するよう議決権行使書を送付する、④両者がプレスリリースや特設サイト、時には新聞広告などを使って、自らの正当性をアピールし、賛成票の獲得合戦を繰り広げる、⑤株主総会当日、集まった議決権の数によって勝敗が決まる、という流れをたどる 20。
- 影響:株主側が勝利すれば、経営陣の交代など、劇的な経営変革を実現できる可能性がある 20。一方で、勝敗に関わらず、委任状の勧誘には弁護士費用や広告費など「多大な費用と労力がかかる」ことや、経営陣と株主の対立が先鋭化することで、本業の「企業の成長が停滞するリスク」も存在する 20。
4. 主要ケーススタディ(1):東芝(2021-2022年)— 巨大企業の戦略を覆した「戦い」
3Dの名を日本市場に轟かせたのが、東芝の経営を巡る一連のエンゲージメントである。
4.1 対立の背景:経営迷走と「3社分割案」
長年にわたる粉飾決算や、株主総会の不公正な運営疑惑など、東芝は深刻なガバナンス不全に陥っており、経営陣と株主(特に海外のアクティビスト)の間には、修復不可能なレベルの「不信感」が渦巻いていた 3。
この混迷を脱するため、東芝の経営陣は2021年11月、会社を「インフラ」「デバイス」「半導体メモリ(キオクシア)」の3社に分割するという「3社分割案」を発表した 3。
4.2 3Dの「NO」:根本的問題の未解決
3Dは、この経営陣のプランに対し、即座に「NO」を突きつけた。
3Dは、3社分割案を「不十分な戦略検討プロセスの結果」であり、「東芝の問題を根本的に解決しない」と厳しく批判した 3。3Dが指摘した「根本的な問題」とは、①経営陣と株主の不信、②不祥事を繰り返す企業文化、③ガバナンスの欠如、の3点であった 3。
3Dのロジックは、「問題を抱えた東芝」を3つに分けても、それは「小さな東芝を3つ作ることに等しく」、ガバナンスなどの本質的な問題は何も解決しない、というものであった 3。
4.3 3Dの戦略:臨時株主総会での「二重提案」
3Dは、単に反対の声を上げるだけでは終わらなかった。彼らは臨時株主総会の開催を自ら請求し、そこに極めて巧妙な2つの議案を付議するよう求めた 3。
- 第1議案:(3Dが反対しているはずの)「3社分割案の実施」を義務付ける定款変更。
- 第2議案:取締役会に対し、「非公開化」や「PEファンドからの出資」を含む、すべての企業価値向上策を再検討するよう求める議案。
一見すると、自らが反対する第1議案をなぜわざわざ提案したのか、奇妙に見える。これこそが3Dの戦略の核心であった。
東芝の経営陣は、会社分割の承認に必要な株主総会の「特別決議」(議決権の3分の2以上の賛成)という高いハードルを、できるだけ先延ばしにしたいと考えていた。
そこで3Dは、あえて自ら「分割案の実施」を議案として提出することで、経営陣を議論のテーブルに引きずり出した。これにより、3Dは「分割案の是非という重要事項について、すべての株主が投票を行う機会を得るべきである」 3 という、誰も反対できない「大義名分」を手にした。3Dはもちろん、この第1議案には反対票を投じる。彼らの真の狙いは、第2議案、すなわち「非公開化」という選択肢を、株主全体の議論の俎上に載せることにあった 3。
4.4 結末:経営陣の「敗北」と非公開化への道
2022年3月に開催された臨時株主総会は、異例の結果となった。
東芝の経営陣が、3Dの動きを受けて修正した「2分割案」(インフラ事業を本体に残す案) 21 は、株主の賛成を得られず「否決」された。そして、3Dが提案した第2議案「戦略の再検討」も、賛成が過半数に届かず「否決」された 4。
表面上は、3Dの提案も否決されたため、「3Dの負け」に見える。
しかし、3Dは総会直後、「会社分割案が株主によって否決されたことを歓迎いたします」という、事実上の「勝利宣言」を発表した 4。
これは、「戦いには負けたが、戦争には勝った」ことを意味する。3Dの真の目的は、自らの議案を通すことではなく、①経営陣が推進する「分割案」を阻止すること、②「非公開化」を選択肢として公に浮上させること、の2点であった。
株主総会で会社側の分割案が否決された(4)ことで、目的①は完璧に達成された。そして、経営陣のプランが白紙に戻ったことで、残された唯一の現実的な選択肢として、3Dがずっと主張してきた「非公開化を含む戦略の再検討」 3 が急浮上した。
この臨時株主総会の結果が、その後の日本産業パートナーズ(JIP)による東芝のTOB(株式公開買付)と非公開化という、歴史的な結末への流れを決定づけた。3Dは、東芝の運命を左右する「キャスティング・ボート」を握った、影の主役であった。
5. 主要ケーススタディ(2):富士ソフト(2022-2024年)—「長期対話」と「非公開化」の実現
東芝の案件が「短期決戦」であったのに対し、システム開発会社の富士ソフトに対するエンゲージメントは、3Dの「長期的な」戦略を象徴するケーススタディである。
5.1 長期にわたる「対話」と「提案」
3Dは、富士ソフトの経営陣と2年以上にわたり対話を試みていた 13。3Dは、富士ソフトが企業価値に比して株価が著しく割安(低PBR)である原因を、「旧態依然とした経営」(old-style management)にあると分析していた 14。
具体的には、「本業と関係の薄い過度な不動産保有」「上場子会社(親子上場)の存在」「低い収益性」といった点を問題視していた 14。
3Dはまず「フェーズ1:対話」を試みた。2022年には、3DのCEOである長谷川氏自身を取締役として派遣する株主提案を行った(これは否決)13。2023年6月には、創業者一族と経営陣が自ら会社を非公開化(MBO:経営陣による買収)してはどうか、と提案したが、坂下智保社長(当時)から「興味がない」と一蹴されていた 13。
5.2 2024年の「株主提案」:二段構えの要求
対話による進展は見られないと判断した3Dは、「フェーズ3:実力行使」に移行。2024年の株主総会に向け、以下の2つの株主提案を行った 15。
- ガバナンス強化:
M&Aや企業統治に精通した弁護士であるスティーブン・ギブンズ氏を、社外監査役に選任すること 15。これは、今後、非公開化の検討プロセスが始まった際に、取締役会を適切に「監督」させるためであった 7。 - 大規模な株主還元(条件付き):
取締役会が、今後提示されるであろう「非公開化(買収提案)に応じない」と決定した場合、その時点から1年以内に、750億円の自己株式取得(自社株買い)を行うこと 7。
5.3 分析:750億円の「条件付き自社株買い」という"詰み"
この2つ目の「条件付き」自社株買い提案は、3Dの戦略の真骨頂であり、富士ソフトの経営陣を事実上の「詰み」の状態に追い込んだ。
3Dはまず、「富士ソフトの企業価値を最大化する道は、非公開化(買収)である」と主張している 6。その上で、経営陣に以下の二者択一を突き付けた。
- A: 我々の主張通り、「非公開化(買収提案)」を受け入れるか。
- B: もしAの「非公開化」を拒否するのであれば、その判断の合理性を他の株主に示すため、我々が指摘する「過剰資本」 7 を即座に株主に還元せよ(=750億円の自社株買いを実行せよ)。
この提案により、経営陣が最も望むであろう「非公開化もせず、株主還元もせず、非効率な資本を抱えたまま現状を維持する」という選択肢は、事実上封じられた。3Dは、自らが提示した「非公開化」というゴール、あるいは「大規模な株主還元」という次善の策の、どちらかに必ずたどり着くロジックを構築したのである。
5.4 結末:KKRによるTOBと3Dの「勝利」
この3Dからの強烈な圧力 6 を受け、富士ソフトは非公開化の検討を本格化させるため、特別委員会を設置した 6。
このプロセスが最終的に、米国の有力プライベート・エクイティ(PE)ファンドであるKKRによる、富士ソフトの非公開化を目的としたTOB(株式公開買付)計画の発表につながった 6。
筆頭株主(23.46%保有)である3Dは、このKKRによるTOBに賛同し、保有する全株式を応募する契約を締結した 5。これは、3Dが長年要求してきた「非公開化による企業価値の最大化」が、他者の手を借りる形ではあるが、完全に実現したことを意味し、3Dの完勝に終わった。
6. 現在進行中の主要エンゲージメント(2024-2025年)
3Dの活動は、現在も複数の日本企業で進行中である。
6.1 東邦ホールディングス(TOHO):ガバナンスを巡る"場外戦"
医薬品卸大手である東邦ホールディングス(TOHO)において、3Dは主要株主として経営陣と激しい対立を繰り広げている。
- 対立の構図:3Dは、TOHOのTSR(株主総利回り)が同業他社に比べて低迷していること、そして「日本大学事件」に関連した不適切な取引疑惑を、ガバナンスの欠如の象徴として公に批判するプレゼンテーションを発表した 10。
- 3Dの批判:3Dは、TOHO経営陣が「違法ではない」と主張する 25 だけで、ガバナンスの本質的な問題(なぜそのような取引が起きたのか、再発防止は万全か)を隠蔽していると非難している 25。
- TOHO側の猛反論:これに対し、TOHO経営陣は、「憶測に基づく」「事実に反する」と主張する異例の反論資料を公表 10。「3Dとは誠実に対話してきたにもかかわらず、一方的に公表されたことは遺憾である」と、3Dの「フェーズ2(公開)」戦術そのものを非難した 10。
- 総会の結果:3Dは、2025年6月(と想定される)の定時株主総会において、枝廣弘巳CEOの取締役再任議案に反対を推奨した。結果、枝廣CEOは再任されたものの、その賛成率はわずか 70.01% にとどまった 9。
- 「70%の信任」が意味するもの:代表取締役の再任賛成率が90%台後半であることが当たり前の日本企業において、賛成率70%というのは、事実上の「不信任」に限りなく近い、極めて低い水準である。これは、3Dの批判が、他の多くの機関投資家にも響いた明確な証拠であり、経営陣に対する強烈な「警告」となった。3DはCEOの解任という目的は達せなかったが、経営陣に深刻な圧力をかけることには成功したと言える。
6.2 東北新社:創業者一族への「非公開化」提案
映像コンテンツ制作大手の東北新社に対しても、3Dは積極的なエンゲージメントを行っている。
- 株式の買い増し:3Dは東北新社の株式を断続的に買い増し、2024年3月時点で17.65%を保有する大株主となっている 26。
- 3Dの提案:2024年7月、3Dは東北新社に対し、TOBによる「非公開化」の提案を行った 8。
- 会社の対応:TOHOとは対照的に、東北新社は提案を即座に拒否せず、「特別委員会」を設置し、提案を「真摯に検討する」姿勢を見せた 8。さらに、3Dに対してデュー・ディリジェンス(企業の資産査定)の機会を与えるなど、対話の門戸を開いている 8。
- 今後の焦点:この案件の焦点は、東北新社が創業者一族の影響力が強い「同族企業」である点にある。報道によれば、この支配株主である創業者一族に売却の意思はなく、提案の実現性には疑問符がついてる 28。これは、3Dが代表する「資本の論理」(全株主の価値最大化)と、「創業者一族の論理」(経営の支配権維持)の対立という、日本企業に典型的な構図となっている。特別委員会 8 が、支配株主の意向と、3Dが提示する一般株主の利益のどちらを優先するのか、その判断が注目される。
7. 3Dインベストメント・パートナーズの現在地(主要保有ポートフォリオ)
3Dが現在、どのような日本企業に投資しているのか。金融庁に提出される「大量保有報告書」などの公開情報に基づき、判明している主要な投資先を整理する。
【表1:3Dインベストメント・パートナーズの主要保有株式(日本)】
(2025年8月時点の公開情報に基づく)
|
企業名(証券コード) |
保有割合 |
直近の報告日(または関連報道) |
3Dによる主要な活動・動向 |
|
富士ソフト (9749) |
23.46% |
2024年8月 5 |
米KKRによるTOB(非公開化)に賛同し、全株式を応募。2年越しのエンゲージメントが結実 [5, 6]。 |
|
東北新社 (2329) |
17.65% |
2024年3月 [27] |
2024年7月にTOB(非公開化)を提案 8。会社側は特別委員会を設置し検討中。 |
|
三井倉庫ホールディングス (9302) |
10.14% |
2025年8月 29 |
保有割合を継続的に増加させている [29, 30]。現時点では、目立った公開キャンペーンは確認されていない。 |
|
東邦ホールディングス (8129) |
(主要株主) |
2025年6月 9 |
経営陣のガバナンス問題を公に批判 10。CEO再任議案で賛成率を70.01%まで低下させた 9。 |
このポートフォリオからは、3Dの戦略の濃淡が読み取れる。
東邦ホールディングスや東北新社のように、活発に「戦闘(エンゲージメント)」が繰り広げられている企業がある一方で、三井倉庫ホールディングスのように、10%以上という高い保有割合ながら、公の活動が見られない銘柄も存在する 29。
これは、3Dが標榜する「パートナーシップ」 2 が、三井倉庫HDにおいては水面下でうまく機能している(=経営陣が3Dの要求を聞き入れ、改善を進めている)可能性を示唆している。あるいは、単に次の「攻撃(エンゲージメント)」に向けた「フェーズ1:対話」の準備段階にあるとも考えられる。
このことは、3Dにとって「公の対決」はあくまで、「対話」が決裂した後の最終手段であること 13 を裏付けている。
8. 総括:3Dが日本企業に与える影響
8.1 3Dの戦略的特徴:「建設的エスカレーション」
本レポートで分析した通り、3Dの行動様式は、単なる「物言う株主」という言葉では捉えきれない。彼らの戦略は「建設的エスカレーション(段階的圧力)」と呼ぶべき、計算されたプロセスに基づいている。
- Phase 1: 対話(Partnership):
非公開の場で経営陣と接触し、パートナーとしてコンサルティング的な提案も行う 2。 - Phase 2: 公開(Publicity):
対話が不調に終わると、他の株主を味方につけるため、経営陣の不作為や問題点を指摘する批判的な書簡やプレゼンテーションを公表する 10。 - Phase 3: 実力行使(Proxy Fight):
最終手段として、株主提案 7 や臨時株主総会の招集 3 を行い、株主全体の意思によって経営陣に「ノー」を突き付ける。
8.2 3Dが日本市場で担う役割:「ガバナンスの触媒」
3Dは、なぜ東芝、富士ソフト、東邦ホールディングスといった企業を選んだのか。彼らは単に「割安(低$PBR$)」な株を買っているのではない。彼らが意図的に選んでいるのは、「ガバナンス(企業統治)の欠如によって、不当に割安になっている株」である。
- 東芝の「経営陣と株主の不信」 3
- 富士ソフトの「旧態依然とした経営」 14
- 東邦ホールディングスの「ガバナンスの本質的な欠如」 25
これらこそが、3Dにとっての最大の「投資機会」である。
3Dのビジネスモデルは、「ガバナンス・アビトラージ(裁定取引)」と呼ぶことができる。彼らのアクティビズム(介入)という「触媒」によって、投資先の「悪いガバナンス」が「良いガバナンス」に修正されれば、株価は本来あるべき価値(=より高い$PBR$)を取り戻す。その差益こそが、彼らのリターンである。
8.3 最終結論
現在、東京証券取引所が中心となり、「PBR1倍割れの改善」を旗印に、日本企業に対して「内側からの圧力」をかけている。
3Dインベストメント・パートナーズは、その「内側からの圧力」に対し、株主という立場から「外側からの圧力」をかけることで、その改革スピードを強制的に加速させる、極めて強力な「触媒」として機能している。
彼らの活動は、対象企業の経営陣にとっては間違いなく「脅威」である。しかし、日本の資本市場全体にとっては、非効率な資本配分や、長年続いてきた「旧態依然とした経営」からの脱却を促す、強烈な「覚醒剤(WAKE-UP CALL)」となっている。3Dが日本で展開するエンゲージメントの事例は、もはや「他人事」ではなく、すべての上場企業が自社のガバナンスと資本効率を見直すための、生きた「教科書」となりつつある。
📌 他のアクティビストも読む
引用文献
- 3D Investment Partners - Kanya Hasegawa - Japan Invest, 11月 6, 2025にアクセス、 https://www.3dipartners.com/
- 3D Urges Fuji Soft Shareholders to Vote for 3D's Proposals at the Fuji Soft AGM, 11月 6, 2025にアクセス、 https://www.businesswire.com/news/home/20240227275098/en/3D-Urges-Fuji-Soft-Shareholders-to-Vote-for-3Ds-Proposals-at-the-Fuji-Soft-AGM
- 3Dインベストメント・パートナーズが東芝に対して臨時株主総会の ..., 11月 6, 2025にアクセス、 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000078783.html
- 3Dインベストメントは、東芝の臨時株主総会の決議結果を受けて声明を発表 - PR TIMES, 11月 6, 2025にアクセス、 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000078783.html
- Notice Regarding the Commencement of Tender Offer for the Shares of FUJI SOFT INCORPORATED (Securities Code: 9749) by FK Co., Lt, 11月 6, 2025にアクセス、 https://www.fsi.co.jp/e/press_release/img/20240904_02.pdf
- KKR plans $4bn Fuji Soft take-private deal, 11月 6, 2025にアクセス、 https://pe-insights.com/kkr-plans-4bn-fuji-soft-take-private-deal/
- 3Dインベストメント・パートナーズ:富士ソフトの監査役選任と条件付きの自己株式取得に関する株主提案について投資家向けプレゼンテーション資料を公表 - Business Wire, 11月 6, 2025にアクセス、 https://www.businesswire.com/news/home/20240218455661/ja
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