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【アクティビスト×銘柄】オアシス × エン・ジャパン——人材業界の「優等生」に、なぜ物言う株主が来たのか

こんにちは。

アクティビスト×銘柄シリーズです。

1本目のオアシス×KADOKAWA2本目のエリオット×住友不動産3本目のバリューアクト×宝HDとその他続けてきて、今回はまたオアシスです。

1本目のKADOKAWAと同じファンド。オアシス・マネジメント。

ただ今回の投資先は、コンテンツ企業じゃなくて人材サービス会社。エン・ジャパン(4849)。2025年10月からは「エン株式会社」に社名変更してるので、正確にはエンなんですけど、ここではまだ馴染みのある「エン・ジャパン」で書いていきます。

それではいきましょう!

まずオアシスのおさらい(軽めに)

1本目のKADOKAWA記事で詳しく紹介したので簡潔に。

オアシス・マネジメントは2002年にセス・フィッシャーが設立した香港拠点のアクティビストファンド。運用資産は約83億ドル(1兆円超)。日本では以前の紹介記事でも書いたけど、フジテックで創業家出身の会長を株主総会で解任したり、花王に96ページのホワイトペーパーを突きつけたり、かなりガチガチの「フルスペクトラム型」アクティビスト。株主提案、公開書簡、訴訟、特設サイト開設——使える手段は全部使う。

KADOKAWA記事のときにも書いたけど、このファンドの特徴は「相手が大企業だろうが創業家だろうが、遠慮しない」ところにある。

あと、オアシスは人材業界にエン・ジャパンだけじゃなく、パソナグループにも5%超の株式を保有してるんですよ。パソナには「A Better Pasona」という専用サイトまで開設して、経営陣に要望書を叩きつけている。人材サービス業界に2社同時に入っている。偶然ではないですね。

エン・ジャパンへの投資の中身

2025年4月7日に判明した大量保有報告書の内容を整理しておく。

  • 保有割合:5.93%(約295万株)
  • 取得金額:約51億円
  • 報告義務発生日:2025年3月31日
  • 保有目的:「ポートフォリオ投資および重要提案行為」

KADOKAWAのときは8.86%・約395億円だったから、金額的にはそれより小さい。でも「重要提案行為」の文言はしっかり入ってる。つまり経営に口を出しますよ、という宣言。

ここで一個気になるのが、越智通勝さん(創業者・現会長兼社長)の持株比率が約10.73%で筆頭株主ということ。オアシスの5.93%は第5位くらいの株主に相当する。KADOKAWAのときはソニー(約10%)とオアシス(8.86%)がほぼ拮抗していたけど、エン・ジャパンの場合は創業者がまだ10%超を持っていて、そこにオアシスが6%弱で入ってきた構図になる。

まぁでも、越智さん個人の10.73%に、関連会社(えん企画、エムオー総研など)の持分を合わせると実質的にはもう少し高いはず。ただ、かつては共同保有者を合わせて23%あったのが、2020年時点で16.77%まで減ってきてる。創業者の影響力が徐々に薄まっているタイミングで、アクティビストが入ってきたわけだ。

エン・ジャパンって、何の会社なんだっけ

「エン転職でしょ」って答える人が多いと思う。まぁそれは間違いじゃないんだけど、ここ数年でけっこう形が変わってきてる。

2026年3月期からセグメントを4つに再編している。

  1. メディア事業(エン転職、エン派遣、AMBI、ミドルの転職)
  2. エージェント事業(エンワールド・ジャパン:外資系・グローバル人材の紹介)
  3. HR・DXソリューション事業(VOLLECTやゼクウなど)
  4. グローバル事業(ベトナムのNavigos Group、インドのFuture Focus Infotech)

あー、これ見ると「求人メディアの会社」ってだけじゃないんだよね。エンワールドで外資系のハイクラス人材紹介やってるし、ベトナムではシェアNo.1の求人サイト「VietnamWorks」を持ってるし、インドではIT派遣をやってる。

ただ、売上の柱はやっぱりメディア事業、特にエン転職。で、ここが問題なんですよ。

エン転職の「失速」と中計の未達

ここがこの記事のキモかもしれない。

エン・ジャパンは2022年5月に5ヶ年の中期経営計画を発表してる。で、その中で「engage(エンゲージ)」という無料の採用支援ツールを次の柱にしようと、かなり積極的に投資した。engageは好調で中計を上回る成長を見せた。

ところが、エン転職のほうが競争環境の変化で想定以上に苦戦した。engageへの投資を前倒しで実行した結果、エン転職の商品改善が後回しになり、投資バランスが崩れた。結果、中計は未達。

数字で見ると、国内求人サイトの2025年3月期の売上高は250億円で前期比15%減。エン転職の広告宣伝費を効率化のために減らしたら、想定以上に利用企業が離れちゃった。

2026年3月期の会社計画はさらに厳しくて、売上高622億円(前期比5.3%減)、営業利益28億円(前期比52.5%減)。減収減益の計画。会社自身が「事業再構築の年」と位置づけている。

しかも2025年12月には、あれだけ投資してきたengage事業をカカクコムに約45億円で売却すると発表。次の柱にするはずだったengageを手放した。カカクコムの「求人ボックス」とのシナジーを見込んでの売却とされてるけど、エン・ジャパン側の説明では「採用市場の多様化や競合の戦略転換により競争環境が激化」して、engageを「非注力領域」と位置づけ直した、と。

なかなか辛い話ですね。5ヶ年計画で次の柱にしようと投資したものを、計画の途中で売却してる。しかもたった45億円で。

そしてこの混乱の中、2025年2月に社長交代が発表された。2008年から17年間社長を務めた鈴木孝二さんが退任し、創業者の越智通勝さん(74歳)が代表取締役に復帰。「変化の激しい事業環境において更なる企業価値向上を目指し、新たな体制による改革が必要」というのが公式の理由。

74歳の創業者が戻ってくるって、なかなかのシグナルだよね。良く言えば「創業の原点に立ち返る」、悪く言えば「後継者体制がうまくいかなかった」。

人材サービス業界の「地殻変動」

ここでちょっと業界全体の話。

人材サービス業界は今ものすごいスピードで地図が書き換わっている。

まずリクルート。売上高3.4兆円、営業利益4,900億円超。もはや国内の求人メディアの会社じゃなくて、Indeedを軸にしたグローバルHRテクノロジー企業になってる。2025年3月末でタウンワーク等の求人メディアの直接掲載を終了し、4月にはHRテクノロジー事業に統合した新子会社を設立。新しいプログラムコードの3分の1がAIによって書かれてるって言うんだからもうIT企業ですね。

パーソルも売上1.2兆円でdodaを中心にAI活用を進めてて、マッチング精度が目に見えて上がってきてる。

で、エン・ジャパンは売上657億円。リクルートの50分の1。パーソルの5分の1。

圧倒的な規模差のある巨人たちと同じ土俵で戦ってる。しかもその巨人たちが今、AIで急速に進化している。

人材業界のもう一つの大きな変化は、「求人メディア」というビジネスモデル自体の変質。Indeedが求人検索エンジンとして台頭して以来、「求人広告を掲載してもらって掲載料をもらう」というモデルは構造的に厳しくなってきた。リクルートがタウンワークの直接掲載を終了したのは象徴的で、業界全体が「掲載課金型」から「成功報酬型」や「ダイレクトリクルーティング型」に移行しつつある。

エン・ジャパンがengage事業を手放したのも、この文脈で理解できる。engageは無料の採用支援ツールとして利用者は増えたけど、マネタイズが追いつかなかった。カカクコムの「求人ボックス」(求人検索エンジン)との統合のほうが事業としては合理的、という判断なんだろうなぁ。

オアシスは何を見ているのか

さて、ここからが本題。オアシスはエン・ジャパンに何を求めてるのか。

まだ公開書簡や具体的な提案は出ていないので、推測の域を出ないんだけど、いくつかの角度から考えてみたい。

まず財務面。エン・ジャパンの自己資本比率は65%で、かなりキャッシュリッチ。以前は日経500種平均株価の構成銘柄のネットキャッシュ比率ランキングで4位に入ったこともある。有利子負債が少なく、現金をたっぷり持ってる会社。

一方、2026年3月期の配当性向は50%、1株あたり24円の配当予想。配当利回りは2%前後。ROEは直近実績で22%あるけど、会社の目標は「11%程度を維持」と控えめ。PBRは1.45倍。

オアシスがパソナに対して指摘した内容が参考になる。パソナには「利益率が低い」「間接費が膨大」「テーマパーク建設は度を超えている」と具体的に突っ込んでいた。同じ人材業界のエン・ジャパンに対しても、似た文脈で攻めてくる可能性はあるかなと。

個人的に想定するオアシスの狙いは、ざっくり3つ。

一つ目は、事業ポートフォリオの整理。エン・ジャパンはengage事業の売却で一歩踏み出したけど、まだ「何でもやってる」感がある。メディア、エージェント、HR-DX、グローバルの4セグメント、加えてベトナムとインドの海外事業。全部を中途半端にやるよりも、強みのある領域に集中しろ、という要求は想像しやすい。

二つ目は、キャッシュの使い方。キャッシュリッチなのに成長投資がうまくいってない(engage投資→売却の経緯を見ると)。だったら株主に返せ、という論理。配当性向50%を掲げてるけど、利益自体が半減する計画なので、配当の絶対額は以前の70円10銭から24円に大幅に減ってる。これはオアシスからすると「許せない」ポイントだと思う。

三つ目は、ガバナンスと経営体制。74歳の創業者が社長に復帰して、17年間の社長が退任。後継者育成がうまくいかなかったように見える。社外取締役の構成や取締役会の実効性に対して、オアシスが何か言ってくる可能性は高い。フジテックでは取締役4名を入れ替えた実績がある。

KADOKAWA記事との比較——オアシスの「型」が見えてくる

1本目のKADOKAWA記事を思い出してほしい。あのときオアシスは、8.86%・約395億円で入った。保有目的は同じく「重要提案行為」。

KADOKAWAのケースで注目したのは、「お前は何者だ」という問いでした。出版社なのか、アニメ会社なのか、ゲーム会社なのか、教育企業なのか。KADOKAWAが「自分は何者か」を定義できていないことが、アクティビストの介入余地を生んでいる要因の1つでした。

エン・ジャパンにも同じ構図がある気がする。

求人メディアの会社なのか、人材紹介の会社なのか、HR-Techの会社なのか、海外人材サービスの会社なのか。5ヶ年計画ではengageを次の柱にするはずだったのに、途中で売却した。エン転職に再投資するというけど、業界全体が掲載課金型から離れていく中で、それが正解なのかは誰にもわからない。

オアシスの「型」がちょっと見えてきた気がする。「自分が何者か」を定義できていない、あるいは市場にうまく説明できていない会社に入る。そして「選択と集中をしろ」「資本効率を上げろ」「株主に還元しろ」と迫る。KADOKAWAでもエン・ジャパンでもパソナでも、根っこは同じなんじゃないかなと。

人材業界にアクティビストが来る時代

あーでも、もう一歩引いて考えると、もっと大きな話がある気がする。

人材サービスって、基本的に「人と企業をマッチングする」ビジネスだよね。で、AIがそのマッチング精度を劇的に上げつつある。リクルートは新しいコードの3分の1をAIで書いていて、パーソルのdodaではAIによる求人紹介が成果に結びついている。

この流れが行き着く先って、「中間業者(マッチングプラットフォーム)の価値が問い直される」ということなんじゃないかなと。

エン・ジャパンが「入社後の活躍」まで支援するというのは理念としては美しい。エン転職がオリコン顧客満足度8年連続No.1なのも本当にすごい。でも、顧客満足度が高いことと、ビジネスモデルが持続可能であることは別の話で。

リクルートが3.4兆円の売上を持ちながら、それでもなお「Simplify Hiring」と銘打ってビジネスモデルを根本から変えようとしているのは、「このままじゃ危ない」と分かっているからだと思うんですよ。3.4兆円の会社が全力で変わろうとしてる横で、657億円の会社が「エン転職への再投資」で勝てるのかどうか。

オアシスがエン・ジャパンに入った理由の一つは、この「業界の構造変化」と「会社の対応スピード」のギャップにあるんじゃないかなぁと思ってる。バリュエーションが割安で、キャッシュが豊富で、でも経営のスピード感が足りない。アクティビストにとっては理想的な投資先に見える。

その後どうなっているか(2025年後半〜2026年3月)

ここまで書いた前提は2025年前半の話。その後にけっこう動きがあるので、アップデートしておきたい。

まずオアシス。5.93%で止まるのかなと思ったら、2025年5月に7.93%まで買い増してる。約100万株の追加取得。保有目的は変わらず「ポートフォリオ投資および重要提案行為」。着実に積み上げている。ただ、2026年3月時点で公開書簡や株主提案は出ていない。まだ「観察・対話」のフェーズっぽい。

エン・ジャパン側で一番大きいのは、2025年10月に社名を「エン株式会社」に変更したこと。越智さんの復帰と合わせて、会社としての再定義をやろうとしている感じ。

業績面では、2Qの経常利益が前年同期比3.3倍と急回復した。上期累計の経常利益23.8億円は通期計画に対する進捗率が約80%。通期予想は営業利益28億円(前期比52.5%減)なんだけど、このペースだと上方修正の可能性がある。3Q累計では売上437億円(前期比9.7%減)、営業利益31.1億円(同17.8%減)と、減収減益は続いてるけど計画よりはマシな着地になりそう。

engage事業のカカクコムへの売却(44.5億円)も正式に完了。売却後の手元現預金は274億円。この274億円をどう使うかが、オアシスとの議論の焦点になるんだろうなぁと思う。自社株買いに回すのか、M&Aに使うのか、配当に回すのか。

2025年6月の株主総会では全議案が可決されているけど、越智さんの賛成率が89.27%と他の取締役より低かった。約10%が反対票を投じている。オアシスが反対したかどうかは公開されていないけど、気になる数字ではある。

あと地味だけど、SMBC日興証券がエン・ジャパンの投資判断を「1(強気)」から「2」に格下げして、目標株価を3,600円→1,700円に引き下げてる。証券会社が離れていくタイミングでアクティビストが入ってくる。こういう構図、よく見るよね。

個人投資家としてのウォッチポイント

ここまで色々書いてきたけど、個人投資家として気にすべきポイントを整理しておきたい。

  • オアシスの次の一手。7.93%からさらに買い増すか。公開書簡が出るか。パソナの「A Better Pasona」みたいな専用サイトが作られたら本気度が一段上がったサイン
  • 274億円のキャッシュの使い道。これがオアシスとの議論の核心になるはず。自社株買い・増配 vs 成長投資
  • 越智さん(創業者)の経営方針の変化。74歳で復帰した創業者が、オアシスの圧力をどう受け止めるか
  • エン転職の再投資の成果。3Qまでの数字を見ると、メディア事業は苦しいけどエージェント・海外は成長中。この「入り繰り」がどう着地するか
  • 海外事業(ベトナム・インド)の成長率。国内メディアが縮む中で、ここが伸びるかどうかで会社の未来が変わる
  • パソナとの比較。オアシスが同じ人材業界で2社に入っている以上、業界全体への提案がある可能性もある
  • 2026年6月の株主総会。株主提案が出るかどうか

あと、これは個人的に気になってることなんだけど、エン・ジャパンの配当が70円10銭の固定配当から、2026年3月期に24円(配当性向50%)にガクッと下がってる。利益が減るから仕方ないんだけどこれってインカム狙いの個人投資家からすると結構きつそう。274億円のキャッシュを持ちながら24円配当ってオアシスが黙ってるとは思えない。

で、どう見るか

正直に言うと、エン・ジャパンの経営は今、かなり難しい局面だと思います。

主力のエン転職は業界の構造変化に直面してるし、次の柱にするはずだったengageは手放した。利益は半減計画。創業者が74歳で復帰。そこにアクティビストが来た。

まぁ逆に言えば、これだけネガティブ材料が揃ってるのに時価総額594億円でPBR1.45倍、自己資本比率65%ってことは、下値はそこそこ堅いのかもしれない。オアシスが入ったことで「何か変わるかもしれない」という期待も乗ってくる。

KADOKAWAの記事でも書いたけど、アクティビストが来る企業には来るだけの理由がある。エン・ジャパンの場合、その理由は「自分が何者かを再定義できていない」こと。求人メディアの会社なのか、総合HRサービスの会社なのか、グローバル人材企業なのか。

ただ、KADOKAWA記事と一つ違うのは、KADOKAWAにはフロム・ソフトウェアという「明確な宝」があった。エン・ジャパンの場合、そういう分かりやすい含み資産は見当たらない。あるのは「エン転職」というブランドと、ベトナム・インドの海外拠点と、キャッシュ。

だからこそ、オアシスが何を提案するかが楽しみでもあるけど。

人材サービスって、結局「人の人生に関わる」ビジネスなんですよね。求職者がどの会社に入るか、企業がどんな人を採用するか。その接点を作ってるのが人材サービス会社。アクティビストの圧力で資本効率を上げることと、「入社後の活躍を支援する」という理念を守ること。この2つは必ずしも矛盾しないけど、簡単に両立するものでもない。

越智さんが「主観正義性と収益性の両立」を経営哲学として掲げてる。オアシスは「収益性」の側から来る。この対話がどう展開するか。

2026年の株主総会シーズン、また一つ面白い展開が見られそうです。

 

引用・参考情報

  1. 日本経済新聞「投資ファンドのオアシス、エン・ジャパン株を6%保有」2025年4月7日
  2. QUICK Money World「エンJPN(4849) 大量保有(5.93%) オアシス マネジメント」
  3. エン・ジャパン「2026年3月期 第1四半期決算説明資料」
  4. エン・ジャパン「代表取締役の異動および社長交代に関するお知らせ」2025年2月28日
  5. 日本経済新聞「カカクコム、エンの採用支援事業を買収 求人ボックスと連携」2025年12月17日
  6. HRog「エン・ジャパン 2025年3月期通期決算」
  7. 日本経済新聞「投資ファンドのオアシス、パソナ株を5.02%保有」2024年7月29日
  8. エン・ジャパン IR「株主還元方針」
  9. ブリッジレポート「エン・ジャパン 2025年3月期決算」

本レポートは情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。