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商船三井にエリオット参戦——海運3社がアクティビストの"標的"である理由

こんにちは。

 

3月18日にニュースが出てましたね。エリオット・マネジメントが商船三井の株式を取得し、3,000億円規模の自社株買いを要求しているらしいです。

www.nikkei.com

商船三井の株価は即座に11%超急騰して上場来高値を更新しました。

「エリオットが来た」というだけで株価が跳ねる。それ自体がエリオットという存在の凄みを物語っていますが、もう少し掘り下げて調べてみようと思います。

気になるんですよね。なぜ今エリオットは「海運」を選んだのか。

海運セクターあんまり知らなかったんですが、構造的な「狙われやすさ」がありそうですね。

エリオットが商船三井に突きつけた4つの要求

まず、今回の件を整理。

エリオットが商船三井に提案しているのは、報道によれば以下の4つです:

  1. 3年間で3,000億円規模の自社株買い
  2. 子会社ダイビルの再上場、または不動産事業の売却
  3. 船舶のセール&リースバック(船を売って借り直す。バランスシートのスリム化)
  4. より野心的な中期経営計画の策定

ポイントは2番目の「ダイビルの再上場or不動産売却」ですかね。商船三井は中計で不動産事業に4,000億円を投資する方針を掲げています。エリオットは「海運会社が不動産に大金を突っ込むのは資本の使い方が間違っている」と主張しているわけで、会社の経営方針と真っ向から対立しています。

なお、タイミングも絶妙だなぁと。商船三井は3月末に中計Phase 2を発表する予定でエリオットはまさにその直前に名乗りを上げた。「中計を出す前に、俺たちの意見を聞け」というメッセージですかね。

エリオットの投資戦略や過去の実績については、以前別の記事で詳しくまとめているので、そちらもどうぞ。

エリオットの日本での「打率」が怖い

エリオットが面白いのは日本でのアクティビスト活動の打率がかなり高いこと。

企業 時期 要求 結果
ソフトバンクG 2020年 自社株買い 2.5兆円の自社株買い実現
三井不動産 2024年 資産売却 2兆円の資産売却計画を引き出す
東京ガス 2024年 不動産売却等 経営改善を推進中
住友不動産 2025年 経営改善 公開書簡で経営陣批判

ソフトバンクグループで2.5兆円の自社株買い。三井不動産で2兆円の資産売却計画。いずれも巨額です。エリオットが来ると実際に会社が動く。この実績があるからこそ、「商船三井にエリオット」というニュースだけで株価が11%跳ねるんですよね。

なぜ「海運」なのか——3社が抱える構造的な問題

エリオットが商船三井を選んだのは偶然でないんだろうなーということで。そりゃアクティビストですからね。端的に言うと日本の海運大手3社(商船三井・日本郵船・川崎汽船)はアクティビストにとって標的の条件を揃えているからかなと思います。

条件①:コロナ特需で積み上がった巨額キャッシュ

2020〜2022年、コンテナ運賃の歴史的高騰で海運3社は空前の利益を叩き出しました。

3社合計の純利益はコロナ前の年間1,800億円程度から、ピークの2022年度には約2.3兆円にまで膨れ上がった。実に12倍以上。

運賃はその後正常化しましたが、稼いだキャッシュは手元に残っています。「このキャッシュをどう使うか」がまさにアクティビストの論点になる。

条件②:全員PBR1倍割れ

海運3社の主要指標を並べてみます。

  商船三井 日本郵船 川崎汽船
時価総額 約2.3兆円 約2.4兆円 約1.0兆円
PBR 約0.8倍 約0.7倍 約0.7倍
配当利回り 約3.1% 約3.4% 約3.9%

3社そろってPBR 1倍割れ。つまり株式市場は「この会社を解散した方が、今の株価より価値がある」と言っている状態です。

東証が2023年から「PBR1倍割れの企業は改善策を開示せよ」と要請している中で、海運3社はまだ1倍を超えられていない。これはアクティビストにとってこれ以上ない大義名分になります。「東証も言ってるじゃないか。もっと株主に還元しろ」と。

条件③:有利子負債と事業多角化の「ツッコミどころ」

商船三井は3社の中で有利子負債が最も多く約1.5兆円。しかも不動産事業への4,000億円の投資計画を掲げています。エリオットが「ダイビルを売れ」と言っているのは、「海運会社なのに不動産に金を突っ込むのは資本効率が悪い」という主張です。

これ、筋としてはまぁわかるよなー。海運の収益はどうしても市況に左右される。だから商船三井は安定収益源として不動産を強化したい。でもアクティビストから見れば「事業の多角化」は「コングロマリット・ディスカウント」(多角化していることで逆に評価が下がること)の原因でしかない。

実はもう1社アクティビストの影響下にある

面白いのは川崎汽船はすでにエフィッシモ・キャピタルが約39%を保有しているということです。

エフィッシモは旧村上ファンド系のアクティビストで、川崎汽船の筆頭株主です。39%という保有比率は日本の上場企業としては異例の水準で、事実上のコントロール下にあると言っても過言ではない。

つまり、海運大手3社のうち:

  • 商船三井 → エリオットが参入(2026年3月〜)
  • 川崎汽船 → エフィッシモが39%保有(既にアクティビスト影響下)
  • 日本郵船 → 現時点では大手アクティビストの参入報道なし

3社中2社がアクティビストの影響を受けている。残る日本郵船にも今後アクティビストが入る可能性は十分にあるとはいえる状態。PBR 0.7倍、キャッシュリッチ、条件は揃っています。

海運は「構造的に狙いやすい」セクター

ここまで見てきたことをまとめると、海運セクターがアクティビストに狙われる理由は明確です。

  1. 巨額のキャッシュが手元にある(コロナ特需の遺産)
  2. PBR 1倍割れで東証からも改善を求められている
  3. 事業多角化がコングロマリット・ディスカウントの原因になっている
  4. 中計の更新タイミングが近い(圧力をかけやすい)

特にコロナ特需で積み上がったキャッシュの使い道が問われている今「もっと株主に返せ」という主張には一定の説得力がある。エリオットの3,000億円の自社株買い要求は、過激に聞こえますが、商船三井の時価総額2.3兆円に対して13%程度。SBGから2.5兆円を引き出した実績を考えると非現実的な数字ではなさそう。

個人投資家としてどう見るか

アクティビストが入ると株価が上がりやすいのは一つの側面ですね。商船三井も発表翌日に11%跳ねました。

ただ気をつけたいのは「アクティビストが入った=買い」と単純に飛びつくリスクです。エリオットの要求がすべて通るかは分からないし商船三井の経営陣が抵抗する可能性もある。そもそも海運業界自体が市況産業で中東情勢や世界貿易の動向に大きく左右されます。

とはいえ、「PBR 1倍割れ」「巨額キャッシュ」「アクティビストの圧力」という3つの条件が重なっている海運セクターは、構造的に株主還元が強化される方向に向かいやすい。特に日本郵船がまだ「空いている」のは、ウォッチしておいて損はないかもしれません。

 

 

※この記事は筆者個人の調査と考察に基づくものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資は自己責任でお願いします。