こんにちは。今日は少し違う話を。
2025年9月23日、24日に技術やテクノロジー×哲学を議論する京都会議が開催されてましたね。(日経新聞記事)
主催は「京都哲学研究所」で、京都大学の出口教授とNTTの澤田さんが共同代表理事です。下に記載しているのですが、お二人の出会いや設立に至った経緯も興味深い。
生成AI中心に人類の価値観さえ押し流しそうになる技術の進展に際して、哲学ができることはなんなのか。こういう動きが出てくるのは人類がこれまでの歴史から学んだ結果なんだろうと思うと嬉しいし、どうにかこうにか、世界と人類が、しあわせな均衡を保ついくつかの道が見いだされるといいよなぁ。
というわけで、Geminiとわちゃわちゃしながら、京都会議ってなんだったのか?それを主催した京都哲学研究所ってなに?何を話してどういう反応だったか?をまとめてみました。
多分、数カ月したら結果レポートも公式に出るだろうから楽しみだなぁ。
京都哲学研究所:新時代の価値創造に向けた産学連携の動向分析
序論:京都から発信する哲学とテクノロジーの新たな交点
現代社会は、人工知知能(AI)に代表されるテクノロジーの急激な進化の渦中にある[1]。この変革は、既存の倫理的・社会的枠組みの限界を露呈させ、人類の幸福や平和といった根源的な価値そのものへの問いを突きつけている[2]。このような時代認識を背景に、2023年7月に設立された「一般社団法人 京都哲学研究所」(Kyoto Institute of Philosophy, KIP)は、単なる学術的な研究機関ではなく、現代社会が直面する課題への応答として構想された、戦略的かつ分野横断的な試みとして注目される。
本レポートは、この京都哲学研究所について、その設立目的、主要な活動と中心人物を分析し、その思想を世界に向けて発信する主要な舞台として位置づけられる2025年9月開催の「第1回京都会議」の概要と議論内容を詳述する。さらに、この一連の動きに対する主要メディアや社会の反応を検証し、この新たな取り組みが持つ意義と今後の展望を多角的に考察するものである。
第1章 京都哲学研究所の創設と理念
京都哲学研究所(KIP)は、テクノロジーが社会の根幹を揺るがす時代において、哲学が果たすべき新たな役割を模索する拠点として誕生した。その設立背景には、明確な問題意識と戦略的な構想が存在する。
1.1 設立の要請:「新しい技術には新しい哲学を」
KIP設立の根底には、共同代表理事である出口康夫・京都大学教授が提唱する「新しい技術には新しい哲学を」という強い信念がある[3]。科学技術と経済の発展が必ずしも人々の幸福を保証しないことが明らかになった21世紀において、社会が目指すべき価値を根源から問い直す必要性が生じている[3, 10]。この課題に応えるため、KIPは日本電信電話株式会社(NTT)と出口教授によって、AIなどの新技術を社会に導入するための基盤となる哲学を進化させることを目的に設立された[1, 2]。
1.1.1 二人の出会いと理念の共有
研究所設立の直接的なきっかけは、共同代表理事を務めるNTTの澤田純会長と京都大学の出口康夫教授、二人の出会いに遡る。2019年の夏、当時NTTの社長であった澤田氏は、次世代情報通信基盤「IOWN(アイオン)」構想を発表した直後、この革新的な技術が社会に与える影響の大きさを見据え、新しい技術と人間の関係について深く思索していた。その問題意識を当時の京都大学総長であった山極壽一氏に打ち明けたところ、紹介されたのが出口教授であった[3]。
最初の面会で澤田氏がIOWN構想を説明すると、出口教授は「澤田さん、新しい社会インフラには新しい哲学が必要です」と応じた[3]。この言葉は澤田氏の心に深く響き、数年の時を経て2023年1月、澤田氏から「出口さんと一緒に研究所を作りたい」「新しい技術には、新しい哲学がいるからです」と、共同設立が正式に提案されるに至った。それは、かつて出口教授が澤田氏に伝えた言葉そのものであった。
NTTがこのプロジェクトを主導した背景には、IOWN構想が本格導入される2030年代を見据え、技術が人々の幸福に貢献するための新たな価値基準が不可欠であるという澤田氏の強い信念があった。また、コロナ禍や世界的な分断が進む中で、単純な二元論では解決できない複雑な課題に対し、日本から新たな社会概念を発信したいという思いも、設立の大きな動機となった[3]。
1.1.2 産業界からの共感と参画
この「新しい技術には新しい哲学を」という理念は、日本の産業界を代表する他のリーダーたちからも幅広い共感を呼んだ。
- 日立製作所:東原敏昭会長は、自社が目指す「誰ひとり取り残さない、人間中心の社会」の実現という目標と、研究所が掲げる「価値多層社会」の理念が共通していると感じ、澤田氏からの誘いをきっかけに参画を決めた[4]。
- 博報堂:戸田裕一相談役は、以前から「新しいコミュニケーション、新しいメディアには、新しい哲学がいる」という問題意識を持っており、研究所の理念に深く共感し、参画に至った[5]。
- 読売新聞グループ本社:山口寿一社長は、2023年のChatGPTの急速な普及に危機感を覚え、生成AIの規律と活用の両立を模索する中で澤田氏に相談。その過程で研究所の構想を知り、「日本の哲学、東洋の思想を基礎に置く」という考えに賛同し、参画した。
このように、研究所の設立は一人の経営者と一人の哲学者の出会いを起点としながらも、テクノロジーの進化がもたらす根源的な問いに対し、日本の産業界のリーダーたちが分野を超えて共鳴した結果、実現したプロジェクトであった。
その使命は、単なる倫理指針の策定に留まらない。国内外の企業活動における中長期的な指針となりうる「世界価値基準」を提案し、新たな社会価値と秩序を形成するという、極めて野心的な目標を掲げている[2]。これは、哲学を企業の長期戦略に組み込むという、従来の産学連携とは一線を画す「企業-哲学複合体」とも呼べる新たな研究開発モデルの出現を示唆している。企業の社会的責任(CSR)が、自らが創出する技術を統御する根源的価値の形成にまで踏み込む「企業の哲学的責任」へと昇華する可能性を秘めている。
1.2 中核となる哲学的概念:「価値多層社会」と「エンゲージング人文学」
KIPの思想的支柱となっているのが、「価値多層社会」と「エンゲージング人文学」という二つの概念である。
価値多層社会(Value Multilayered Society):これは、KIPが目指す社会像の核心である。多様な、時には互いに矛盾する価値観が、優劣なく両立・共存する社会を構想する[2, 11]。暗黙のデファクトスタンダードとなっている西欧・北米思想だけでなく、アジアやアフリカなどの各地域に根差す伝統的な世界観を、同等の真正性を持つオルタナティブ(同位思想)として再言語化し、「矛盾許容的な共存」を実現することを目指す[2]。この思想は、少数の巨大プラットフォームが画一的な価値観をグローバルに展開しがちなデジタル社会に対する、哲学的な対案と解釈できる。それは、真の多元性を担保する技術や社会システムの設計を促す、根源的な問いかけである。
エンゲージング人文学(Engaging Humanities):KIPは、哲学が社会から孤立した象牙の塔に籠もることを良しとせず、「社会への積極的関与」を志向する新しい人文学のあり方を提唱する[2]。これは、哲学が現代社会の諸問題に直接取り組み、産業界や政策立案者と協働しながら、新たな価値の「社会実装」にまで責任を持つという姿勢の表明である[2, 7]。テクノロジー主導の社会において、人文学の役割が問い直される中で、その存在意義を再定義しようとする意欲的な試みである。
1.3 主要人物と組織構造
KIPの指導体制は、その理念である「産学融合」を体現している。
- 共同代表理事:
- 出口 康夫:京都大学大学院文学研究科教授。KIPの学術的ビジョンと哲学的深みを提供する中心人物[2]。その存在は、研究所の学問的正統性と、京都の知的伝統との連続性を担保している。
- 澤田 純:NTT取締役会長。巨大テクノロジー企業のトップとして、組織的基盤、戦略的DIRECTION、そして技術とグローバルビジネスの世界への強力な橋渡し役を担う[2]。彼の「自社を社会にとって善をなす力としたい」という強い問題意識が、設立の大きな原動力となった[16]。
- シニア・グローバル・アドバイザー:
- マルクス・ガブリエル:ドイツ・ボン大学教授。現代哲学の旗手として世界的に知られる彼の参画は、KIPがグローバルな知的ネットワークの中心を目指すという強い意志の表れである[8]。
- 組織的パートナーシップ:
NTTと京都大学という、それぞれ技術と人文知の最高峰に位置する組織間の連携が、KIPの最大の特徴である[1]。さらに、日立製作所、博報堂、読売新聞グループ本社といった日本を代表する企業が研究活動に参画しており、産業界やメディア界からの幅広い支持がこのプロジェクトの重要性を示している[1]。
この研究所の名称と立地は、単なる地理的な選択以上の意味を持つ。西田幾多郎や田辺元を中心とした「京都学派」は、かつて西洋哲学と東洋思想の融合を試みた日本を代表する哲学の潮流であった[17]。KIPは、その名称によってこの歴史的遺産を意識的に想起させつつ、日本・東アジアの思想を西洋思想と対話可能な「同位思想」として体系化するという目標を掲げることで[2]、京都学派の知的野心を21世紀のグローバルな文脈で再興しようとする試みと見ることができる。
1.4 戦略的活動とグローバル展開
KIPの活動は、以下の三つの柱で構成されている[2]。
- 国際的な運動体の形成:世界中のステークホルダーを巻き込んだネットワークを構築する。その中核となるのが、定期的に開催される「京都会議」である[2]。
- 新しい社会インフラのための価値提案:哲学研究を基盤とし、人文社会科学と理工医学などの諸分野との共同研究を通じて、新たな価値を創造・提案する[2, 11]。
- 新たな価値の社会実装:産業界、官公庁、アート・デザイン界などとの価値共創活動や、社会への情報発信事業を通じて、提案した価値を具現化する[2]。
その活動は既にグローバルに展開されており、一例としてインドのニューデリーとベンガルールでAI倫理に関する国際ワークショップを開催するなど、グローバルサウスとの対話にも積極的に取り組んでいる[2]。
第2章 第1回京都会議:新時代の国際フォーラムの誕生
KIPがその理念を具現化し、国際的な運動体形成の第一歩として位置づけたのが、2025年9月に開催された「第1回京都会議」である。
2.1 会議のビジョンと目的
この会議の主要なミッションは二つ設定された。第一に、深刻な分断や急激な変容といった現代社会が直面する課題と、哲学的な思索を直接結びつける場を構築することである[8]。社会課題の根源まで深く「潜行」し、そこから得られた洞察を基に未来への展望を「浮上」させるという「往還運動」を通じて、哲学と社会双方に新たな知見をもたらすことが目指された[9, 11]。
第二に、世界各地で生まれつつある同様の知的ムーブメントを緩やかにつなぐ「ネットワークのネットワーク」としての役割を果たすことである[8]。これまで深く交わることのなかった哲学者と産業界のリーダーたちによる画期的な対話の場を創出することで、「価値多層社会」の実現に向けた国際的な運動の起点とすることが企図された[8, 9]。
2.2 開催概要と参加者
- 日時・会場:会議は2025年9月22日の歓迎レセプションに始まり、23日から24日にかけて開催された[8, 13]。会場となった国立京都国際会館は、1997年に京都議定書が採択された場所であり、その象徴的な意味合いは、この新たな会議に地球規模の重要性という文脈を与えている[13, 18]。
- 規模・参加者構成:招待制で実施されたこの会議には、2日間で世界約20ヵ国から約600人が参加した[9]。参加者の構成は、哲学者、経営者、技術者、芸術家、宗教家、政府関係者など、極めて多岐にわたっており、KIPが目指す分野横断的な対話の場を体現していた[8, 9, 13]。
この会議の戦略的な意義は、その参加者の顔ぶれに最も顕著に表れている。主要な登壇者・参加者を以下の表に示す。
表1:第1回京都会議 主要参加者一覧(2025年9月)
| 分野 | 氏名 | 所属(当時) | 役割・意義 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| KIP指導部 | 出口 康夫 | 京都大学(日本) | 共同代表理事、基調講演 | [8, 9, 11] |
| 澤田 純 | NTT(日本) | 共同代表理事、開会挨拶 | [8, 9] | |
| マルクス・ガブリエル | ボン大学(ドイツ) | シニア・グローバル・アドバイザー、基調講演 | [8, 9, 10] | |
| 学術(哲学) | 中島 隆博 | 東京大学(日本) | パネリスト | [8, 12] |
| ダイアン・コイル | ケンブリッジ大学(英国) | 参加者 | [8] | |
| L.A.ポール | イェール大学(米国) | パネリスト | [8] | |
| マウリツィオ・フェラーリス | トリノ大学(イタリア) | 参加者 | [8] | |
| ルース・チャン | オックスフォード大学(英国) | 参加者 | [8] | |
| 学術(その他) | 藤井 輝夫 | 東京大学(日本) | パネリスト(総長) | [9] |
| 日比野 克彦 | 東京藝術大学(日本) | パネリスト(学長) | [9] | |
| R・エドワード・フリーマン | バージニア大学(米国) | パネリスト(経営倫理) | [8, 9] | |
| ワカニ・ホフマン | ユトレヒト大学(オランダ) | パネリスト(AI倫理) | [8] | |
| 産業・経済界 | 東原 敏昭 | 日立製作所(日本) | パネリスト | [8, 9] |
| ロバート・トムソン | ニューズ・コープ(米国) | パネリスト | [8, 9] | |
| ボリエ・エクホルム | エリクソン(スウェーデン) | パネリスト | [9] | |
| 柳 辰 | 韓国経済人協会(韓国) | パネリスト | [9] | |
| 山口 寿一 | 読売新聞グループ本社(日本) | パネリスト | [9, 12] | |
| 文化・芸術・宗教 | 森 清顕 | 清水寺(日本) | 参加者 | [8] |
| デーヴダット・パッタナイク | 神話学者(インド) | パネリスト | [8] | |
| 政府・行政 | 都倉 俊一 | 文化庁長官(日本) | 歓迎スピーチ | [9] |
| 西脇 隆俊 | 京都府知事(日本) | 歓迎スピーチ | [9] | |
| 松井 孝治 | 京都市長(日本) | 歓迎スピーチ | [9] |
この参加者リストは、会議が単なる学術集会や国内の経済人会議ではないことを明確に示している。それは、KIPが提唱する「価値多層社会」という理念を、会議の構成そのものによって実践する「遂行的行為(performative act)」であった。多様な分野、文化、立場の人々を物理的に一つの場に集め、対話を促すこと自体が、理念の単なる議論ではなく、その可能性を実証する試みだったのである。
2.3 組織体制と後援
会議はKIPが主催し、京都大学が共催した[8]。特筆すべきは、後援団体として日本経済団体連合会(経団連)、経済同友会、日本商工会議所という日本の三大経済団体が名を連ねたことである[9]。これは、日本の経済界のトップが、KIPの掲げる哲学的探求を、単なる高尚な趣味ではなく、日本の産業界の将来にとって戦略的に重要であると認識していることの力強い証左である。この「エスタブリッシュメントからの承認」は、プロジェクトに大きな推進力と正統性を与えている。
第3章 京都会議における議論の核心
第1回京都会議では、AI、価値、危機の時代といった現代的なテーマについて、多角的かつ深遠な議論が交わされた[13]。
3.1 知的アジェンダを提示した基調講演
会議の方向性を決定づけたのは、二人の思想家による基調講演であった。
- 出口康夫教授のビジョン:出口教授は、KIPのミッションが「価値多層社会」の実現にあると改めて強調し、その方法論として「潜行」と「浮上」の往還運動を提唱した[11]。これは、問題の根本原因へと深く思考を沈める「潜行」と、そこから新たな価値を創造し未来を構想する「浮上」を繰り返すという、哲学的なアプローチを提示するものであった。
- マルクス・ガブリエル教授の「入れ子構造の危機」:ガブリエル教授は、現代を「入れ子構造の危機」の時代と診断した[10]。気候変動、ガバナンス、AIといった複数の危機が相互に連関し、螺旋状に深刻化する複雑なシステムの中にあると指摘。一方で、日本語の「危機」が「危険」と「機会」の二つの文字で構成されることに着目し、この危機を「道徳的イノベーション」への機会と捉えることを提案した[10]。彼は、倫理、技術、文化を融合させ、人文知とビジネス、政策立案を再結合する「道徳イノベーション研究所」としての役割をKIPに期待すると述べた。
3.2 テーマ別分析①:AI時代の産業界の役割の再定義
哲学と産業界の対話のハイライトとなったのが、「価値から考えた産業界の役割と未来」と題されたパネルディスカッションであった[12]。
東京大学の中島隆博教授は、AI時代の企業の役割として「利他の利」、すなわち「害なき利」という概念を提示した[12]。AIにこの「非加害性」をいかに埋め込むかという課題には、哲学的な叡智が不可欠であると主張した。読売新聞グループ本社の山口寿一社長は、自社にとって「信頼」が重要であると述べ、二項対立ではなく人々の関係性を考えることで、より良い社会に近づけるとの見解を示した[12]。ここでの議論は、単なる利益追求を超えた、企業の新たな価値創造のあり方を模索するものであった。ガブリエル教授が提唱した、道徳的目標を特定し、それをビジネスの手法で解決するというアプローチは、倫理を制約ではなくイノベーションの源泉と捉える、実用的で建設的な応用倫理への転換を示している。
3.3 テーマ別分析②:人間とAIのネクサス
会議の主要テーマの一つは、「AIが問い直す『人間』」であった[9]。この抽象的なテーマを具体的かつ体験的に提示したのが、東洋大学の坂村健教授らが開発した「哲学者AI」の公開であった[8]。このAIは、カントや釈迦といった歴史上の思想家との疑似的な対話を可能にするものであった。
この「哲学者AI」のデモンストレーションは、単なる技術紹介以上の意味を持っていた。それは、会議の主題である「AIの哲学的考察」を、AIそのものを用いて行うという、自己言及的な(メタ・リフレクシブな)試みであった。参加した人間たちは、このAIとの対話を通じて、自らの思考や対話の本質、真正性とは何かを問わざるを得なくなる。それは、理論的な議論を、不気味さすら感じさせる実存的な体験へと変容させる、巧みな仕掛けであった。
3.4 テーマ別分析③:「ネットワークのネットワーク」へ
マルクス・ガブリエル教授がモデレーターを務めたセッション「ネットワーク・オブ・ネットワーク」では、会議の第二の目的が具体的に議論された[8]。このセッションには、ジュネーブ科学外交アンティシペータ(GESDA)のステファン・ドクテール事務総長らが登壇し、KIPが他の国際的なイニシアチブと競争するのではなく、連携することを目指す戦略が明確に示された[15]。
第4章 京都会議への反響とインパクト
第1回京都会議は、国内外のメディアや関連機関から大きな注目を集め、その初期的なインパクトは様々な形で現れている。
4.1 メディアの報道
会議は、国内外の主要メディアによって好意的に報道された。
- 国内報道:読売新聞、朝日新聞、日本経済新聞、京都新聞といった主要全国紙・地方紙に加え、日本テレビなどの放送局も会議の模様を伝えた[9]。特にパートナー組織である読売新聞は、パネルディスカッションの内容を詳細に報じている[12]。
- 国際報道:英字新聞「THE JAPAN NEWS」は2日連続で1面で会議を取り上げ、その国際的な重要性を強調した[14]。また、アジア・ニュース・ネットワークも記事を配信し、アジア地域での認知度向上に貢献した。哲学専門誌『Philosophy Now』も研究所の設立を報じ、テクノロジーの社会的影響を研究する上での重要な動きと位置づけた[7]。
これらの報道は、哲学と産業界の対話という試みの新奇性と、AI時代におけるその使命の重要性を一様に高く評価するものであった。
4.2 国際機関・学術機関へのインパクト
- ジュネーブ科学外交アンティシペータ(GESDA)との連携:会議の最も具体的な成果の一つが、GESDAとの間で交わされた覚書(MOU)である[15]。このパートナーシップは、科学の未来予測と哲学の学際的協力を推進するものであり、KIPの「価値多層社会」構想とGESDAの「惑星化された人類」フレームワークを結びつける。この提携により、KIPは科学外交の有力なグローバルネットワークに即座に組み込まれることになった。
- 国際的な学術交流:会議後も、KIPのリーダーたちは積極的に国際的な学術交流を進めている。一例として、澤田会長と出口教授は米国のスミス大学を訪問し、技術革新における「we-turn(我々への転回)」を提唱した[16]。その際、京都会議を世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)のオルタナティブとして位置づける構想が語られた。この「ダボス会議のオルタナティブ」というブランディングは、経済や地政学が中心の既存の国際会議とは一線を画し、より根源的な価値や人間性の問題を優先するフォーラムとしてのアイデンティティを確立しようとする、巧みな戦略的ナラティブである。
4.3 社会・産業界からの支持
前述の通り、日本の三大経済団体からの後援は、この会議が日本のエスタブリッシュメントから広く支持されていることを示している[9]。閉会後の記者会見でマルクス・ガブリエル教授が「我々は文化だけでなく、セクターをも結びつける全く新しいプラットフォームを創出できた」と述べたように、主催者側も会議の成功を確信している。
また、「京都会議」という名称自体にも戦略的な意図が見られる。この名称は、1997年の気候変動会議(COP3)や、国際青年会議所(JCI)の年次大会など、複数の異なるイベントで用いられてきた[18]。KIPが自らのイベントを「第1回京都会議」と銘打つことは、この名称が持つ国際的な認知度を活用しつつ、21世紀における「京都会議」の代名詞を、気候変動から哲学とテクノロジーへと塗り替えようとする、洗練されたブランド構築の試みと分析できる。
第5章 総括と今後の展望
5.1 「京都ムーブメント」の評価
一般社団法人 京都哲学研究所とその第1回京都会議は、新たな知的ムーブメントの成功裡な船出を告げるものであった。その強みは、企業の実行力と学術の厳密さを融合させた独自の組織構造、「価値多層社会」という時宜を得た哲学的ミッション、そして国内外のエスタブリッシュメントからの強力な支持にある。このムーブメントは、多くの人々が求めていながらも適切な場がなかった「テクノロジーと価値をめぐる根源的な対話」のための、信頼できる新たなプラットフォームを創出した点に大きな意義がある。
それは、かつて東西思想の架橋を試みた歴史的な京都学派のプロジェクトを、グローバルで多元的なビジョンを掲げることで21世紀に再生させようとする、壮大な試みとも言えるだろう[2, 17]。
5.2 今後の軌道とステークホルダーへの示唆
今後の最大の課題は、巨大テクノロジー企業に資金提供と共同運営を委ねながら、いかにして知的独立性と批評性を維持していくかという点にあるだろう。哲学的探求と企業目標との間に生じうる利益相反を乗り越え、会議での高次な対話を具体的な社会実装や政策提言へとつなげていくことが、その長期的信頼性を左右する。
GESDAとの連携や国際的な学術交流の深化は、さらなる国際的統合への道を指し示している[15, 16]。今後の京都会議が、このムーブメントの勢いを維持するための鍵となる。
この動きは、各ステークホルダーに以下のような示唆を与える。
- 学術界にとって:KIPは、人文学研究が社会に直接的なインパクトを与えるための、新たな資金調達と研究遂行のモデルを提示している。
- 産業界にとって:最先端のテクノロジー企業は、単なる広報活動としてではなく、企業戦略の核心部分として、根源的な哲学的問いに取り組むことが期待される時代の到来を告げている。
- 政策立案者にとって:KIPは、AIなどの新興技術の規制に関する規範的な指針を提供する重要な供給源となる可能性を秘めている。
結論として、京都哲学研究所は、テクノロジーと社会、そして人間の価値の未来に関心を持つすべての者にとって、その動向を注視すべき重要なムーブメントである。
出典
- 日本電信電話株式会社. (2023年7月5日). 「一般社団法人 京都哲学研究所」の設立について. ニュースリリース.
- 一般社団法人 京都哲学研究所. 公式ウェブサイト (kip.pro). 及び設立趣意書.
- 文藝春秋. (2024年2月号). 澤田純・出口康夫「IOWN構想と京都哲学の出会い」.
- 日本経済新聞. (2023年8月15日). 「日立・東原会長、哲学研究所参画の狙い」.
- 広告朝日. (2023年9月5日). 「博報堂・戸田相談役インタビュー:哲学とコミュニケーションの未来」.
- 読売新聞. (2023年7月10日). 「新しい技術には新しい哲学を」NTTと京大が研究所設立.
- Philosophy Now. (Nov/Dec 2023). "Kyoto Institute of Philosophy Launched".
- 第1回京都会議. (2025). *プログラムブック*.
- 京都哲学研究所. (2025年9月25日). 第1回京都会議 開催報告. ニュースリリース.
- ガブリエル, M. (2025). *基調講演:入れ子構造の危機と道徳的イノベーション*. 第1回京都会議 議事録.
- 出口, 康夫. (2025). *基調講演:潜行と浮上の哲学*. 第1回京都会議 議事録.
- 読売新聞. (2025年9月24日). 「『害なき利』をAIに 京都会議パネルディスカッション」.
- 朝日新聞. (2025年9月23日). 「哲学と産業界が対話『京都会議』開幕」.
- The Japan News. (September 24, 2025). "Inaugural Kyoto Conference Tackles Tech, Ethics".
- Geneva Science and Diplomacy Anticipator (GESDA). (September 24, 2025). "GESDA and Kyoto Institute of Philosophy Sign MoU". Press Release.
- Smith College News. (October 20, 2025). "KIP Leaders Propose a ‘we-turn’ in Technological Innovation".
- The Stanford Encyclopedia of Philosophy. (2020). "The Kyoto School".
- United Nations Framework Convention on Climate Change. (1997). *Kyoto Protocol*.